「抗日神劇」に代わって中国で流行る「覇道総裁劇」って?
ニューズウィーク日本版 / 2024年6月13日 13時45分
風刺画で読み解く中国の現実
<最近中国ではやっているのが、「覇道総裁劇(ドラマ)」。中国人が好きな強権型リーダーが主人公のチープな恋愛劇あるいは復讐劇なのだが、このドラマの流行は実は建国の父・毛沢東と無縁ではない>
10年前の中国では、抗日神劇(抗日ドラマ)がとても人気があった。最近、中国のネット配信でそれを超える大ブームになっているのが、「覇道総裁劇」である。「 覇道総裁」とは、財力と権力と能力があり、強引に物事を決める経営者やリーダーを指す。覇道総裁劇は、こういった主人公と貧しい女性との恋愛物語、あるいはいじめや嫌がらせを受けた貧しい者がある日、突然人生が逆転し、覇道総裁に変身して復讐をかなえるといったストーリーが多い。
覇道総裁劇の流行は、中国人の憎しみの対象が日本から金持ちに変わったことを示す。毛沢東思想によれば、敵・味方の矛盾から人民内部の矛盾に転換したわけだが、同時に中国社会の現実を投影してもいる。
改革開放の40年で中国は厳しい格差社会になり、階層の固定化が進んだ。頂点に立つ強引な権力者と、その周りの取り巻きが富裕層を形成し、大半の人々は相変わらず社会の底辺に暮らす。カネも権力もない一般人は現実では怒りをこらえ、何も言わずじっと我慢し、ドラマの復讐劇で大いに満足する。
しかし、全ての復讐は下位の者が見事に人生を逆転し、大成功の権力者になってこそ実現できる。これも結局は中国人にとって権力崇拝が根源にあるからではないか?
中国では今も毛沢東崇拝が盛んだ。学歴も財力もなく、無名の大学図書館職員から大国の最高指導者になった毛沢東の逆転人生は、まるで覇道総裁の復讐劇そのもの。毎年の誕生日や命日には、毛の故郷・韶山(しょうざん)に何千人何万人の参拝者が集まる。政府からの呼びかけでなく自発的に、だ。
文化大革命を主導した毛を中国人民が恨んでいると思ったら大間違い。文化大革命で富裕層や知識層は没落したが、一般人は大した損害を被っていない。むしろ毛沢東のおかげで一般人は「平等」を手に入れた。富裕層は彼らと同じ貧乏人になり、知識層も彼ら同様に軽蔑されたからだ。
そう考えると、なぜ今の中国で「文革2.0」の恐怖支配が再び始まったのかが分かる。その根源にあるのは、中国人の深い覇道総裁、すなわち独裁者崇拝意識だろう。独裁者はただ1人では独裁者になれない。万民崇拝の風土も必要なのだ。
ポイント
人民内部の矛盾 毛沢東が唱えた革命理論。共産党が定義する人民(労働者、農民、知識階級、愛国的資本家)の間で生じる矛盾のことで、外国勢力や資本家など敵との矛盾と違って平和裏に処理すべきとされた。
韶山 湖南省中部の山間に位置する人口10万人の市。毛沢東の生家があることで知られる。昨年12月26日の生誕130年の記念日には、生家周辺が数千人の観光客や支持者でごった返した。
これが中国で大流行する「覇道総裁ドラマ」
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