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なぜガザの停戦案はまとまらないのか?「イスラエルは軍事力だけではハマスに勝てない...」

ニューズウィーク日本版 / 2024年6月18日 17時55分

ガザ戦争は「良い戦争」

第2段階では、生存しているイスラエルの人質が全員解放される。ただし、死亡者については第3段階で遺体が返還される。それと引き換えに、イスラエルの刑務所に収監されている多数のパレスチナ人が釈放される。第3段階では、ガザの復興も始まる。

ところが、ハマスが新たに示した対案は、3段階の枠組みそのものを変えようとしている。さらに、停戦合意後すぐに、人口密集地だけでなくガザ全土からイスラエル軍が撤退することを要求する。

イスラエル人の人質解放についても、生存者を優先することはなく、生死にかかわらず人質1人につき数十人のパレスチナ人収監者の釈放を要求する。これらの対案について、ハマスはロシアや中国、トルコなど数カ国の支持を確保して、イスラエルに圧力をかけたい考えのようだ。

ハマスが新たな要求を突き付けたのは、現在の指導部では、政治的な駆け引きにたけたハニヤよりも、戦争を仕切るシンワールの立場が上であることを示唆している。

WSJの報道によれば、パレスチナの立場を世界にアピールできたという意味で、この戦争は「良い戦争」だと、シンワールは考えている。

そのために3万7000人のパレスチナ人が命を落としたのも「必要な犠牲」だったとし、少なくともあと数カ月は戦争を続けるだけの武器と人員があると主張している。

これに対してハニヤは、戦後のことを考えている。武装組織ではなく政治組織としてのハマスの機能を維持し、ロシアと中国の後ろ盾を得ながら、パレスチナ国家樹立に向けて結束を図りたいようだ。

だが、シンワールはあくまで戦争を続けたがっている。彼は、ネタニヤフがハマスの新停戦案をのむことは困難だと知っており、それを口実に(つまり停戦合意がまとまらないのはイスラエルのせいだと主張して)戦争を継続できると考えている。

ネタニヤフに戦後のガザの現実的な統治計画がないことは、かねてからそれを求めていたガンツの抗議の政権離脱で改めて浮き彫りになった。元軍人のガンツは、軍事力だけではハマスに勝てないことを知っている。

「戦後はパレスチナ自治政府がガザを統治する」と定めていなければ、どんな停戦合意もハマスに好都合になる。

ネタニヤフの優柔不断はよく知られている。米政府の圧力にもかかわらず、当初の停戦案の実施を遅らせているうちに北部ではレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラとの衝突がエスカレートし、イスラエルは事実上2つの戦線を抱えることになった。

ハマスが昨年10月にイスラエルを襲撃したのは、ハニヤではなくシンワールのアイデアだった。そしてシンワールは明らかに戦争を続けたがっている。ネタニヤフが4人の人質救出に酔っていられる時間はさほどないはずだ。

John Strawson,Emeritus Professor of Law,University of East London

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.




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