少年非行は増えている? 思い込みが事実認識を歪める
ニューズウィーク日本版 / 2024年6月20日 18時20分
2015年に道徳が教科となり、文科省の検定教科書が使われることになった。戦前の修身科を彷彿させるが、「非行が増えている」「子どもが悪くなっている」といった世論の影響もあるかもしれない。
若者のモラルが低下しているという声も聞くが、データを見るとそうでもない。20代の若者に4つの道徳を提示し、大切と思うものを2つ選んでもらった結果をグラフにすると、<図2>のようになる。当該の道徳を選んだ人のパーセンテージだ。
権利尊重と自由は減少し、親孝行と恩返しが増加の傾向にある。2013年までの推移であるものの、若者は義理堅くなっていることが見て取れる。
道徳の教科化を支持するエビデンスとは、どういうものだったのだろうか。「子どもは悪くなっている」という、国民のネガティブ本能に押されただけのことであったとしたら恐ろしい。
世論の形成に寄与するメディアにしたら、「子どもは良くなっている」「教育は良くなっている」と大っぴらに言うのはためらわれる。楽観的な状況診断が政策を誤らせたら大変で、ひとまずネガティブ論を立てておけば問題ないとなる。学者や評論家の仕事も、基本的には問題提起だ。
しかし『ファクトフルネス』で言われていることだが、「悪い」と「良くなっている」は両立する。前者は今のことで、後者は過去と比べた変化だ。この両輪を見据えることが、ネガティブ本能を抑えるのに有効だという。「良くなっている」とは、現状の容認を意味するのではない。
教育論議では、「悪い」と「良くなっている」の両輪のうち、前者ばかりを過大視してしまいがちだ。後者もすくわないと、現場で奮闘する教師の心も折れてしまう。「悪い」と「良くなっている」の両輪がバランスよく見据えられていたら、2015年の道徳教育改革も違ったものになったかもしれない。
<資料:法務省『犯罪白書』(2023年版)、
統計数理研究所『日本人の国民性調査』>
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