「映画よ、もっと気候変動を語れ」 ディカプリオ主演作や『マッドマックス』の功績とは?
ニューズウィーク日本版 / 2024年6月21日 15時3分
そう指摘するのは、米イースタンイリノイ大学のジョゼフ・ヒューマン名誉教授(コミュニケーション学)とロビン・マリー名誉教授(英語学)だ。
映画における環境問題の描き方について複数の共著がある2人は、最も初期の例として、「映画の父」と称されるフランスのリュミエール兄弟の短編作品を挙げる。
1897年に現在のアゼルバイジャンの首都バクーで撮影されたもので、極めて初期の大規模油田の光景を捉えた映像だ。
「現代なら環境災害と呼ばれるはずの出来事が、当時は石油生産という偉業と見なされていた」と、ヒューマンは本誌に語る。
映像では、巨大油井が煙と炎を噴き上げ、その手前を1人の人物が歩いている。「有害で恐ろしい環境だと分かるが、この人物は気にしていないようだ」
ホラー映画やアクション、西部劇、コメディー作品を対象に長年研究を行ってきたヒューマンとマリーによれば、映画での環境問題の扱われ方は、このテーマをめぐる世間の認識とともに変わる傾向がある。
石油危機が起き、アースデイが創設された70年代には、環境問題を扱う作品も増えた。「環境的変化に対する新たな見方に呼応する映画が作られた」と、マリーは指摘する。
いい例が、73年のSF映画『ソイレント・グリーン』だ。温室効果を初めて取り上げた大手スタジオ作品の1つである本作では、人口過多と食料不足に悩む世界で、チャールトン・ヘストン扮する主人公が暑さに苦しみ続ける。
現代の多くのハリウッド大作には気候という視点が欠けているが、低予算映画や独立系作品、ドキュメンタリー分野では環境問題がブームになっていると、マリーは言う。「気候変動への意識の高まりを反映した動きとみている」
問題は観客に行動を促すことができるかどうかだと、ヒューマンは話す。「知識を提供することは可能だ。だが今のところ、それは必ずしも行動につながっていない」
危機の時代の「物語」を
まるでハリウッド映画のような歴史的偶然と言うべきか、リュミエール兄弟の作品の舞台になったバクーで今年11月、国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)が開催される予定だ。
グッドエネルギーのテストに合格した『ドント・ルック・アップ』(21年)は気候変動問題に正面から取り組むが、少なくとも直接的な形ではほぼ触れていない。
主人公は、レオナルド・ディカプリオとジェニファー・ローレンスが演じる科学者2人。地球に小惑星が衝突する危機が迫るなか、2人はポップカルチャーにしか興味のない世間に警告しようと奔走する。
気候変動の寓意として小惑星の衝突を描くことで、この映画は政治やメディアという障害をコミカルに風刺する。
気候変動の啓発活動に約20年前から携わっているジョイナーにとっては、心に響く作品だ。危機に無関心な人々の反応は「最初の10年間に私が体験したことと同じ。だから、この映画を見てカタルシスを感じた」。
ジョイナーの活動の原点は生まれ育った環境にある。
出身地である米メキシコ湾周辺は、海面上昇や異常気象といった気候危機の最前線。著名なメガチャーチ(巨大教会)の牧師で保守派論客の父親は、気候変動の懐疑論者だ。「気候への不安、悲しみや怒りを私自身も味わってきた」
そんな暗い感情に対処する際に、彼女はしばしば物語の力に頼ってきた。
「気候変動の時代である今、人々は意味を求めて物語に目を向ける。これまでもずっとそうだったように」と、ジョイナーは言う。「だからこそ、ハリウッドに焦点を当てる意義がある」
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