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生体臓器移植は、性犯罪者が過去を償い再出発する道となるか?

ニューズウィーク日本版 / 2024年6月24日 14時30分

(写真はイメージです)  Bruno van der Kraan-Unsplash

ピーター・シンガー(米プリンストン大学生命倫理学教授)
<性犯罪者のジェフ・ユーワーズは、罪を償うために生体臓器移植に挑み、新しい人生への一歩を踏み出した>

ジェフ・ユーワーズは性犯罪者だ。米バンダービルト大学で神経科学学士号を取得後に児童ポルノ所持で逮捕され、懲役2年の判決を受け、服役中、生体臓器移植について作家フランク・バレスが書いた記事を読んだ。これこそ、あまりにも間違ってしまった人生に、肯定的な意味を与える方法になるかもしれない──そう考えるきっかけだった。

釈放され、通常の生活に戻った後、ユーワーズは生体臓器移植のドナー候補者として評価を受けるプロセスに取りかかった。かつてエクササイズ中に背骨を痛めたために、不適格と拒否されたが、諦めなかった。減量して健康状態を改善し、あらゆる薬剤の摂取をやめた。再び評価を受けたところ、今度は「合格」だった。

それでも、臓器提供に踏み切ることには葛藤があった。犯罪歴のせいで、努力が全て無駄になる可能性を懸念したからだ。彼は応用倫理学分野での筆者の活動を耳にしたことがあり、話をしたいと連絡してきた。

子供1人の命を救えるなら、それだけで計画を進める十分な理由になると、私は伝えた。彼のように、アメリカで性犯罪者として登録されている人々(その数は100万人近くに上る)に罪を償う方法の1つを示すことができるなら、成し遂げられる善はさらに大きくなる、と。

本人も既に同じように考えていた。性犯罪歴のある者としてアメリカで生きることがどれほど自信を奪い、自己疎外感に満ちているかはよく分かっていたし、おそらく同様の体験をしている重罪犯はほかにもいる。少なくとも彼らの一部は、大変な間違いをしたものの悪人ではなく、誰かの命を救う機会を喜んで受け入れるはずだ。

そうした人々に希望や主体性、利他精神をもたらす手助けができるか。自分の取り組みによって提供の輪を広げ、さらに多くの命を救うことができるだろうか。もしそうなら、自らの最悪の過ちを、ほかのやり方では達成できないほど大きな変化を起こす力に変えられるのではないかと考えた。

アメリカでは毎年、末期肝臓疾患患者の児童約60人が肝臓移植を待つ間に命を落としている。移植希望者として登録している匿名の児童に、肝臓の一部である「葉(よう)」を提供することを、ユーワーズは決心した。摘出手術が行われたのは2022年8月。術後は順調に回復した。

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