669人の子供をナチスから救った「英国のシンドラー」伝記映画、美談に隠れたイギリスの汚点とは?
ニューズウィーク日本版 / 2024年6月28日 12時17分
もう1つの大きな問題は、ユダヤ人の子らが異教の国イギリスで信仰とその生活習慣を守り続けるのに必要な配慮が欠けていたことだ。
映画『ONE LIFE』には、短いながらもこれらの問題に触れたシーンがある。若き日のウィントンがプラハで1人のラビ(ユダヤ教の聖職者)に会い、保護を必要とするユダヤ人児童のリストを渡してくれと頼む場面だ。
このときラビは「この子たちの親はどうする?」と尋ね、イギリスに渡ってからもこの子たちはユダヤ教徒でいられるのだろうかとウィントンを問い詰めている。
しかし、これらの問いへの答えはない。そこで明かされるのはウィントン自身にもユダヤ人の血が流れていること、しかし本人はすっかりイギリス的な価値観の持ち主であることのみだ。
名もなきヒーローたち
若き日のウィントン ©WILLOW ROAD FILMS LIMITED, BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2023
もちろん、ウィントンが立派な人物だったことに疑いはない。自分は別に大したことはしていない、もっと頑張った人がたくさんいると、いつも語っていた。
今回の映画では、チャドウィックとワリナーという2人の活動家にも焦点が当てられている。
子供たちの世話をしながら、チェコスロバキアからの出国とイギリスへの入国に必要な書類集めに奔走したのは、この2人のような無名の活動家たちだ。彼らの献身はもっと高く評価されていい(この映画は、少なくともその方向に確かな一歩を踏み出している)。
作中の老ウィントンは、自分にはもっとできることがあったはずだと後悔し続け、ホロコーストの恐怖に向き合うのを避けるため生涯を慈善活動にささげた人物として描かれている。
若き日にユダヤ人の子供たちを助けたことも、彼の生涯にわたる人道支援活動の一環として捉えるのが正解かもしれない。
かなり遅ればせながらではあるものの、ユダヤ人救出活動に対する関心の高まりと国家的なヒーロー願望が重なって、ニコラス・ウィントンは(本人は望んでいなかっただろうが)注目の的になり、「イギリスのシンドラー」という神話的な地位に押し上げられた。
だが、この神話には難民としてイギリスに渡った子供たちの視点が欠けている。
難民の1人で詩人のカレン・ガーションは66年に、キンダートランスポートに関わった人たちの回想録『私たちは子供だった(We Came as Children)』を編んでいる。当時の事実とそのレガシーに関する第1級の資料だ。
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