欧米の保護主義とEVシフト...中国排除のジレンマ
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月4日 13時30分
中国製EVへの規制で対立する習近平国家主席(左)とウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長(パリ、今年5月) NATHAN LAINEーBLOOMBERG/GETTY IMAGES
ディーゼルゲートを契機として、EUはディーゼル車の高性能化から自動車の電動化の推進に戦術を転換させた。とはいえHVやプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)を容認すれば、日本メーカーのほうが優位だ。そのためEUはEVに活路を見いだし、域内の自動車メーカーがEV生産に注力するよう、そしてユーザーがEVを選択するよう政策的に誘導するようになったのである。
米中という2つの超大国に対峙するため、EUは「規制を輸出」することで、グローバルな影響力を行使しようとする。EU域内での新車販売を35年までにEVに限定すれば、EU向けに自動車を生産する諸外国のメーカーは対応せざるを得ない。さらに、世界的にEVシフトを呼びかけていくことで、EUが目指す方向に世界の動きを誘導することが可能となる。
このようにEUが規制を輸出し、グローバルな政治力を行使することを「ブリュッセル効果」と呼ぶ。過去には個人情報保護、最近ではAI(人工知能)の分野で、EUは同様のアプローチを取っている。
実際、EU発のEVシフトに関してはその深度は各国で異なるものの、グローバルな広がりを見せたという点においては、一定のブリュッセル効果が発揮されたと考えていいだろう。アメリカでは、EUに融和的なバイデン政権がEVシフトの流れに呼応し、アメリカでもEV推進の流れが加速した。こうした欧米の動きを受けて、中国もまたEVシフトに取り組むようになった。
とはいえ、EUが推進するEVシフトが、アメリカにおける保護主義の動きを刺激した点も看過できない。
例えば、バイデン政権はインフレ抑制法に基づき、国産化率が高いEVにのみ購入時の税制優遇を適用することで、EVの完成車メーカーをアメリカに誘致するようになった。バイデン政権の方針は保護主義そのものであり、ブリュッセル効果がネガティブな意味で副作用を生むことを浮き彫りにした。
そして当のEU域内でも、自国優先の保護主義が台頭する事態となっている。例えばフランス政府は、自国製EVに対してより手厚い購入補助金を給付するように、昨年12月補助金制度を改定した。結果的に、EUは域内外において、EVシフトを通じて各国における保護主義の流れを刺激してしまったのだ。
この記事に関連するニュース
-
日本車メーカーの「ドル箱市場」を中国EVが侵食…「世界一の自動車大国」の座を奪われた日本がやるべきこと
プレジデントオンライン / 2024年7月4日 7時15分
-
欧州委、中国製EVに対し「最大38.1%」の追加関税 テスラやBMWなど外資系の中国工場製も対象に
東洋経済オンライン / 2024年6月17日 18時0分
-
アングル:EUの対中関税、米よりマイルド 切れない経済関係
ロイター / 2024年6月14日 18時14分
-
EU、自動車産業の存続に危機感 中国では「保護主義」に反発も
共同通信 / 2024年6月12日 21時39分
-
トランプ氏当選なら「韓国自動車産業に不利な政策」の可能性…韓国研究機関が大統領選の報告書
KOREA WAVE / 2024年6月11日 8時10分
ランキング
-
1「敵前逃亡」で兵士25人に死刑 コンゴ軍事法廷
AFPBB News / 2024年7月4日 13時59分
-
2英総選挙きょう投開票、「穏健」労働党が大勝見込み…スターマー党首が左派色改め現実路線へ回帰
読売新聞 / 2024年7月4日 9時46分
-
3ウクライナ軍、ドネツク州要衝の一部地区から撤退 ロシア軍侵入
ロイター / 2024年7月4日 19時8分
-
4イスラエル、西岸で12.7平方キロ「国有地化」 過去30年で最大の土地接収
AFPBB News / 2024年7月4日 13時2分
-
5新興国結束で米に対抗=ベラルーシ加盟、次回中国―上海協力機構
時事通信 / 2024年7月4日 20時6分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)