自分たちは「いつも被害者」という意識...なぜイスラエルは「正当防衛」と称して、過剰な暴力を選ぶのか?
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月11日 9時55分
ガザの子どもたちが泣き叫ぶ声がまだ頭から離れない私は、まるで異次元にいるような感覚におそわれた。これがエルサレムの現在の「日常」だ。
私は現地にいた6年半、専門家を訪ね歩いて同じ質問を繰り返した。
「なぜイスラエルは『正当防衛』と称して過剰な暴力を繰り返すのですか」
最も説得力を感じたのは、紛争心理学の研究で世界的に知られるテル・アヴィヴ大学名誉教授のダニエル・バル・タルの答えだった。
「イスラエルのユダヤ人は、自分たちは敵対的な人々に囲まれている、という被害者的な被包囲意識を持っている。パレスチナはアラブ諸国の大軍の一部であり、小さいとも弱いとも思っていない。自分たちこそがアラブの憎悪の海に浮かぶ孤島だと感じている」
この意識は東欧からロシア、そしてナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)と脈々と続いた差別と迫害の歴史の中で、ユダヤの民の「血となり肉となってきたもの」だという。
そして自分たちは「いつも被害者だ」という意識が「正当防衛」としての暴力をエスカレートさせていくというのだ。
被害者意識は個人のアイデンティティに組み込まれ、やがてそれは集団的なアイデンティティを形成する。それが被害者物語となって社会全体を動かして行くのかもしれない。
ハマスによる攻撃が近年、残虐性を増す背景にもこうした被害者物語が生み出す暴力のメカニズムが潜んでいるように思える。
本書はユダヤとアラブの民が抱える被害者意識の源流と本質を理解するうえでも大いに示唆に富む。
大治朋子(Tomoko Ohji)
毎日新聞編集委員。1989年毎日新聞入社。東京本社社会部、ワシントン特派員、エルサレム特派員。英オックスフォード大学ロイタージャーナリズム研究所客員研究員を経て、イスラエル・ヘルツェリア学際研究所大学院(テロ対策・国土安全保障論)修了、テルアビブ大学大学院(危機・トラウマ学)修了。2002、2003年度新聞協会賞受賞。2010年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『勝てないアメリカ 「対テロ戦争」の日常』(岩波新書)、『アメリカ・メディア・ウォーズ ジャーナリズムの現在地』(講談社現代新書)、『歪んだ正義 「普通の人」がなぜ過激化するのか』『人を動かすナラティブ なぜ、あの「語り」に惑わされるのか』(ともに毎日新聞出版)など。
『[新版]おおエルサレム! アラブ・イスラエル紛争の源流 上巻』
ラリー・コリンズ、ドミニク・ラピエール[著]
村松 剛[訳]大治朋子[解説]
KADOKAWA[刊]
(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)
『[新版]おおエルサレム! アラブ・イスラエル紛争の源流 下巻』
ラリー・コリンズ、ドミニク・ラピエール[著]
村松 剛[訳]臼杵陽[解説]
KADOKAWA[刊]
(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
アングル:イスラエル、ヒズボラと停戦でもガザでの合意は見通せず
ロイター / 2024年11月28日 16時47分
-
焦点:ヨルダン川西岸で拡大するイスラエル入植地、「トランプ2期目」に期待の声
ロイター / 2024年11月27日 16時39分
-
“またトラ”で中東どうなる? ~ハマス幹部が私たちに語ったこと【ロンドン子連れ支局長つれづれ日記】
日テレNEWS NNN / 2024年11月22日 16時40分
-
イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容疑
ロイター / 2024年11月22日 3時50分
-
アラブ連盟とイスラム協力機構が臨時首脳会議を開催、ガザ情勢を協議(サウジアラビア、イスラエル、パレスチナ)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年11月19日 0時30分
ランキング
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください