対戦国の国歌にブーイング......僕がイングランド人を心底恥じる瞬間
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月5日 16時50分
コリン・ジョイス
<ユーロ2024でも見られるこの光景は正当化しようのない絶望的な行為だ>
ほとんどの人は、自分の母国について何かしら気に入らないことがあるだろう。一般的には人々は本能的に、たとえ建前上だったとしても、自分の国を支持するようになっているものだ。
自分の国のよろしくない事実を知った時は、「ああ、でも他の国でもよく起こることだよね」とか「確かにそうだけど、どこどこの国ではもっとひどい状況だよ」とか言うかもしれない。あるいは、欠点を補って余りあるような自国の人々の美点を持ち出して、話をそらしたりする。
でも時には単純に、「うん、これはひどい。イギリス人(フランス人/日本人/......)でいるのが嫌になるよ。こんなことはやめるべきだ」と言った方がいい場合もある。僕の場合は、イングランドのサッカーファンが対戦チームの国歌にブーイングする様子を見てそう感じる。
こんなことを正当化する理由は何も見いだせない。おそらくこれをやらかす人の中には、こうすることで対戦チームに過酷な環境だと感じさせ、自国チームを「全力で応援する」ことになると考えている人もいるかもしれない。でも大多数のファンは、スタジアムで対戦国に失礼な態度を示し、その国のファンを侮辱するような行為を、「お楽しみの1つ」と考えているふしがあるのではないかと思う。
差別撤廃は進んできたが
もちろん今こんなことを書いているのは、ユーロ2024の真っ最中だから。イングランドFA(サッカー協会)、イギリス警察、その他の当局は、フーリガン根絶のためにしっかりとした働きをみせてきた。ちょっとしたトラブルはちらほら起こるが、1980年代とは比べものにならない(今では、有罪判決を受けたフーリガンは、大規模なトーナメントで会場での観戦を禁止され、開催中はパスポートを返上しなければならないことになっている)。人種差別および同性愛嫌悪に反対する長年の活動は、かなりうまく進んできた(単純に、これらは犯罪に当たるから、法律で徹底的に罰せられる)。
それでもブーイングは続き、ほとんど無差別にどこが相手でも起こっている。例えば、ウクライナ侵攻への非難を表明する手段としてロシアを侮辱する、というようなものではない。友好国の国歌にも同じようにブーイングするし、地政学的にも競技上でもライバルではないような小国の国歌でもそうする。
しばらく連絡を取っていなかったドイツやイタリア、デンマークの友人が、僕がサッカー好きと知っているし、もうすぐ互いの国が対戦するから、ということでメールを送ってきてくれたりすると、たまらなく申し訳なくなってしまう。僕は、前もって謝っておくことを覚えた。
4年前も僕は、試合後に謝罪しなければならなかった。イングランドがドイツに快勝したのだが、イングランドファンがドイツのファンに繰り出したヤジや嘲りに、ドイツの少女が涙を流す様子がカメラに撮られてしまったからだ。「悪い敗者」は十分悪いが、「悪い勝者」は絶望的だ。
これはスポーツの本質から完全に外れている。対戦国同士は、友好的な、いや、お祭りムードの競争の精神で向き合うのだ。イングランドのファンは、対戦する全ての人々を侮辱することで、自分自身をおとしめている。
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