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石丸躍進の原動力「やわらかいSNSファンダム」を考える

ニューズウィーク日本版 / 2024年7月9日 9時42分

しかし、そうしたことはなされず、小池知事の出方を伺って逐次追尾するという消極的な広報戦略が取られたように見える。その結果、都知事選で「政治とカネ」問題が中心的争点になったとはいえず、(神宮外苑再開発等の争点があったとはいえ)これはという「誰しもが関心を持つような明確な争点」(あるいはシングルイッシュー)が有権者の間で共有されていたとも言い難い状況で投票日を迎えた。

これに対して、石丸候補の躍進はどう見るべきか。

苦もなくボランティア5000人を集めた石丸陣営

「SNSを駆使して若者層に食い込んだ」、「無党派票をかっさらって蓮舫候補が沈んだ」といったことが指摘されている。確かにその通りではあるが、むしろ、石丸候補が「やわらかいSNSファンダム」の形成に成功し、それが小池・蓮舫というベテラン政治家の争いに引き気味の無党派層の「消極的選択」の受け皿として機能したというべきではないか−と思われる。

「ファンダム」とはメディア論・文化批評の用語で、熱心なファンによるキングダム(王国)という造語から転じて、同好の者達が形成する領域あるいは文化といった意味合いだ。

石丸候補は安芸高田市長時代、居眠りした市議会議員や新聞社を揶揄し罵倒する動画をYouTubeにアップロードし続け人気を博していた。視ていた者すべてが「この市議会議員はトンでもないな」とか「新聞社はえらそうだな」とか真剣に同調していたというよりも、「対立する様子がガチで配信されている状況」をスマホで面白がる視聴者が増えていたのだ。これが石丸ファンダム形成の第一歩だ。

その後、石丸氏は市長を辞任して都知事選に立候補する。これを「いとも簡単に市政を放り出して無責任極まりない」とか「売名行為に過ぎない」とか、眉をひそめ肩に力を入れて説教を始める人にはSNSファンダムの内在的論理を理解することはむずかしい。ファンは基本的にこの「破天荒な愚行」あるいは「行きあたりばったりに見える行為」を石丸氏というアイコン(象徴的人物)の所業として、ただ楽しんでいたのだ(その「楽しみ」が基盤となって、選挙戦終盤では「感動」も生まれていたが)。

ポスター貼り、証紙貼りのボランティアを集めるのに苦労するのはどの選挙でも当たり前だ。ところが石丸陣営は苦もなくボランティア5000人を集めた。献金もアッという間に2億円を超えている。これは選挙期間中の「陣中見舞い」というよりもライブ配信等でみられる「投げ銭」の感覚だろう。それが「いとも簡単に」実現されたように見えるのは、ひとえにファンダムの論理が働いたからだ。ビデオ撮影の有償手配や集会への動員があったかもしれないとしても、選挙運動を支えた実質は、無名のファンによる「楽しみ」、正確には「楽しみの共有(シェア)」だったと言えよう。

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