イスラエル軍の指揮統制の問題が浮き彫りに...最も明確に表れた3つの事例
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月9日 15時0分
3つ目は、IDFがこの紛争を通じてパレスチナ人捕虜を拷問し続けているという信憑性の高い告発が行われていること。出所は被収容者や人権団体、内部告発者などだ。
拷問は軍施設でひそかに行われることもあるが、公然と長時間にわたって無理な姿勢を取らせたり、非戦闘員を下着姿で歩かせるといったケースもある。これらは明らかに国際人道法違反だ。
兵士らが軍の指揮統制に深刻な問題があることを示す行動を続けている要因は、3点考えられる。第1に政治家や軍上層部が兵士の人道法違反を問題視しないこと、第2が軍のドクトリン、第3はIDFが徴兵軍であることだ。
第1の点について言えば、IDFでは民間人を犠牲にすることに関して中堅の将校に過剰な裁量権が与えられている。その一方で一般の兵士は、政府上層部の言葉どおりに行動する。ある元イスラエル兵が英BBCに語ったように、一般兵士は「結果に対して責任を取る必要がない」ためだ。この感覚がIDFの文化に影響を及ぼし、指揮統制を弱体化させ、市民保護の規範とプロ意識を損なっている。
徴兵制による軍の弱点
第2に、イスラエルの軍事ドクトリンはもともと民間人の犠牲について驚くほど寛容だった。この点は、敵を屈服させるために民間インフラに対する意図的で「過剰」な攻撃を指示した「ダヒヤ・ドクトリン」に見て取れる。2006年の第2次レバノン戦争の際に策定されたものだが、多くのアナリストがみるところ、IDFがガザで採用しているのはダヒヤ・ドクトリンの一種のようだという。
IDFは近年、ダヒヤ・ドクトリンのような報復的アプローチに代わり、より積極的なドクトリンを採用してきた。イランの代理勢力や、それらがイスラエルの軍事的優位にもたらす脅威に対して「決定的勝利」を目指すものだ。
だがこうした戦略的な転換にもかかわらず、IDFは今も「敵のシステムに対する迅速かつ大規模な武力行使」に重点を置き、ダヒヤ・ドクトリンに顕著な集団的処罰の考え方や民間人の犠牲に対する無関心に頼っている。実際に昨年10月7日の戦闘開始以降、民間人の犠牲に関するガイドラインは大幅に緩和され、結果として前例のない破壊がもたらされている。
第3に、イスラエルはIDFを世界で最もプロ意識の高い軍の1つと位置付けようとしているが、IDFは徴兵制による軍だ。徴兵軍は職業化された軍よりも規律が緩いことで知られる。
IDFは予備役への依存度も高い。IDFの予備役は米軍のそれと比べて訓練が大幅に不足しており、規律が深刻な問題になるのは当然だ。
以上のことから、大きな問いが浮かび上がる。IDFの軍人の残虐行為に対し、国家としてのイスラエルは責任を負うべきか。
国に責任はないと主張する人もいるだろう。ごく一部の悪党による行為か、何らかのミスの結果だと。
しかし国には、自国軍の兵士の行動に対する法的責任があるはずだ。そう考えると一連の問題は、イスラエル政府が自国軍を、ひいては戦争を管理する能力を欠いていることを示唆している。もし政府が事態を正確に理解しているなら(つまり一連の残虐行為を指示または容認しているなら)、国際人道法や武力紛争法に対するイスラエルの違反の程度はさらに深刻になる。
これはIDFを支援しているアメリカにとっての問題でもある。IDFが自らの兵士を管理できないなら、アメリカは彼らに資金や武器を提供すべきではないはずだ。
From Foreign Policy Magazine
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