検事長の定年延長問題に見る、日本の民主主義が「カミワキ頼み」な現状
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月12日 17時45分
プチ鹿島
<自民党の裏金問題や、検事長定年延長の法解釈変更をめぐる裁判など、次々と権力の闇に光を当てまくる上脇教授。でもそこに深刻な問題があると時事芸人のプチ鹿島さんは指摘します>
ああ、やはりと思った方も多いのではないか。次のニュースだ。
「元東京高検検事長の定年延長巡る協議記録、大阪地裁が開示認める...『解釈変更の目的は黒川氏』」(読売新聞、6月28日)
当時の記事でおさらいしよう。
「あまりに不自然である。(中略)恣意的に法解釈を変更したと疑われても仕方があるまい」
これは2020年2月24日の産経新聞の社説だ。保守系の新聞も当時の安倍政権の対応に驚いていた。
本来のルールなら、20年2月8日に63歳の誕生日を迎えた黒川弘務東京高検検事長は「定年」で「退官」するはずだった。しかし安倍内閣は1月31日の閣議決定で、黒川氏の定年延長を決めた。そこから騒動が始まった。私はこれほど誕生日が注目されたおじさんを近年知らない。
たった一人の戦いが司法を動かした
当時の読売新聞によれば、19年末から官邸と法務省との間で次期検事総長の人選が水面下で進められたが、安倍首相と菅官房長官は黒川氏が望ましいとの意向を示したという。安倍政権にとってよほど使い勝手がいい人だったのか。だから法解釈を変えてまで「重宝」しようとした、と。
これだけではない。安保法制での「解釈改憲」や公文書改ざん・廃棄、モリカケ問題など、安倍一強時代ではやりたい放題が横行していた。
すると神戸学院大学の上脇博之教授が「黒川氏のための定年延長」を決めた経緯が分かる文書の開示を求めたのである。法務省は大部分を「該当文書なし」と不開示にした。上脇教授は国の決定を取り消すよう求めた訴訟を起こし、冒頭の記事のとおり大阪地裁は不開示決定の一部を取り消した。裁判長は判決理由で「法解釈の変更は黒川氏のためと考えざるを得ない」と指摘したのだ(編集部注:7月11日に地裁判決が確定)。
それにしても上脇教授である。自民党派閥の「裏金」不記載問題もこの方の働きなくしては語れない。
「しんぶん赤旗」が22年11月にスクープした派閥の過少申告疑惑を重大だと考えた上脇教授は、正月返上で自民党5派閥の政治団体の収入明細を国の公表資料と突き合わせて検証。スクープで指摘された以上の不記載を見つけ、東京地検に告発した。
次々に闇に光を当てる上脇教授の働きぶりは国民栄誉賞モノではないかと思うが、一方で上脇教授一人に頼るばかりでよいのか、とも思う。
昨年11月の東京新聞では「個人の熱意任せではなく、本来はオンブズマンや報道機関がもっと追及する必要がある」と専門家が指摘している。
では黒川氏の問題を別の視点で振り返ろう。解釈変更後に提出された検察庁法改正案は廃案になったが、黒川氏本人は新型コロナ下の緊急事態宣言中の賭けマージャンを「文春砲」で暴かれて辞職。マージャンの相手は朝日と産経の記者だった。朝日は社説に次のように書いた。
「小欄としても同じ社内で仕事をする一員として、こうべを垂れ、戒めとしたい」(20年5月22日)
頭は下げるけど謝らず。妙にエラそうだ。心の中では「権力者には近づいてナンボだろ」と思っていそう。全国紙がこうなら日本の民主主義は今後も上脇教授頼みなのか......。
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