「自己責任論」から「親ガチャ」へ...「ゼロ年代批評」と「ロスジェネ論壇」の分裂はなぜ起きたのか
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月18日 9時45分
不況と、日経連の「新時代の日本的経営」による提言で正規と非正規に労働者を分断したことなどによって、ニートやフリーターが増大していることは、政策的にも統計的にも明らかであるにもかかわらず、当人たちの内面に責任を帰し、社会全体が彼らを犠牲にしながらその利益を得たのだ。
そしてその「自己責任」という認識を当人たちに内面化させるという卑劣なことまで行われた。ある意味で、虐待と洗脳に近い。
だからなのか、2ちゃんねるなどでは、「無職」「童貞」「ニート」などの煽りや自嘲も多かった。ただ、当時はまだ悲壮感がなく、ユーモアもあった。
2020年代初頭のツイッター(現・X)では、これら「格差の再生産」の議論は「親ガチャ」や「地方出身者や階層の低い者は教育などの機会も少ない」などという恨み言として定番になっている。
つまり、ピエール・ブルデューの言っていた「文化資本・社会関係資本」の格差が再生産されるという考え方が、広範に普及したと言える。
能力主義や自己責任論、竹中平蔵なども頻繁に批判の対象となり、20年近く遅れて、当時「ブサヨ」と揶揄された人たちの主張が大衆化した状況になっていると思われる。
当時から「肉屋を擁護する豚」と言う揶揄は存在していたが、まさにそれが真実であったことが、今となってははっきりと分かる。
10年、いや、20年前に、多くの人々がこの認識を持ち、社会改革のために立ち上がっていれば、今の状況は存在していなかったかもしれない。中には、人生に取り戻せない影響を受けた者たちもたくさんいるだろう。
しかし、その変革を起こせなかった原因の一つは、冒頭に挙げた、政治や社会を忌避する文化とロスジェネ的な社会運動との「分裂」に拠るのではないか。
では、この分裂はなぜ生じたのだろうか。それを分析するには、「文化」の問題に踏み込まなくてはならない。
藤田直哉(Naoya Fujita)
1983年札幌生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。東京工業大学大学院社会理工学研究科価値システム専攻修了。博士(学術)。著書に『虚構内存在――筒井康隆と〈新しい《生》の次元〉』『シン・ゴジラ論』『攻殻機動隊論』『新海誠論』(すべて作品社)、『新世紀ゾンビ論――ゾンビとは、あなたであり、わたしである』(筑摩書房)、『娯楽としての炎上――ポスト・トゥルース時代のミステリ』(南雲堂)『ゲームが教える世界の論点』(集英社新書)、共著に『3・11の未来:日本・SF・想像力』(作品社)など多数。
『現代ネット政治=文化論: AI、オルタナ右翼、ミソジニー、ゲーム、陰謀論、アイデンティティ』
藤田直哉[著]
作品社[刊]
(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
文章は映像よりも「上から目線(エラそう)」?...贅沢品になった「使えない知」延命のヒントとは
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月17日 11時9分
-
文芸評論家・三宅香帆さんインタビュー「批評より考察が人気の今の時代、批評の面白さを伝えたい」
NEWSポストセブン / 2024年7月17日 7時15分
-
「オバマ政権の大失政」が生み出したトランプ現象 告発された「金融業界癒着」「中間層救済放棄」
東洋経済オンライン / 2024年7月16日 8時20分
-
全世界化した資本主義が向かう「3つのシナリオ」 現代の「知性」は資本主義の暴走を止められるか
東洋経済オンライン / 2024年7月9日 10時30分
-
予定調和をぶっ壊す『戦隊大失格』をレビュー&考察 『鬼滅の刃』や『ジョーカー』との意外な共通点とは? “バーンアウト”と“階級社会”に抗うヒントがここに…!?
Fav-Log by ITmedia / 2024年6月22日 8時15分
ランキング
-
1米副大統領候補のバンス氏、台湾へのパトリオット供与遅れを批判「ウクライナのせい」
産経ニュース / 2024年7月17日 14時38分
-
2トランプ氏は「神の手に守られた救世主」 暗殺未遂、個人崇拝に拍車
AFPBB News / 2024年7月17日 16時29分
-
3「将軍」最多25ノミネート=主演の真田広之さん候補―米エミー賞
時事通信 / 2024年7月18日 4時53分
-
4韓国でLINEユーザーが急増した理由 日本への反発?
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月17日 15時55分
-
5百貨店で大規模火災 16人死亡 中国・四川省
日テレNEWS NNN / 2024年7月18日 10時25分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください