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「開発独裁が効率的」「脱炭素も進む」...中東の「民主国」クウェートで何が起こっているのか

ニューズウィーク日本版 / 2024年7月17日 18時40分

だが、国民議会および一部憲法が首長によって停止されているため、その権利が蔑ろにされたことになる。今後、サバーフ家と議会側のあいだで対立がさらに深まる可能性がある(なお、皇太子に関する憲法の規定は停止の対象になっていない)。

また、クウェート憲法では、首長位は代々ムバーラク・サバーフ(大ムバーラク)の子孫によって継承されると規定されているが、慣習的にムバーラクの息子のうち、ジャービルとサーレムの2人の子孫が皇太子・首長についていた(現ミシュアル首長、ナウワーフ前首長、サバーフ元首長はジャービル家、そのまえのサァドはサーレム家出身)。

他方、今回皇太子に指名されたサバーフは、大ムバーラクの子孫であるが、ジャービル家でもサーレム家でもなく、ハマド家の出身であり、これは、大ムバーラク以後のクウェートの歴史上はじめてである(下の家系図参照)。

クウェート首長家の家系図(筆者作成)

多くのクウェート人が他の湾岸諸国と同様の「開発独裁」を...

中東における王位・首長位の継承は兄から弟という水平移動、父から子への垂直移動、そしてこの2つの組み合わせというのが一般的であるが、クウェートはそのどちらでもなく、ジャービル家とサーレム家の「たすきがけ人事」とでも呼べるものであった(ちなみに、ミシュアル首長とサバーフ皇太子は祖父が兄弟の「はとこ」関係である)。

しかし、今回ハマド家が加わったことから、大ムバーラクの他の子どもの系譜も首長になれることになり、これがさらに複雑化する可能性が高い。つまり、首長位争いで首長家内部の対立が顕在化しやすくなるということでもある。

かつてクウェートは現代のエルドラドと呼ばれ、金持ちの代名詞のような存在であった。しかし、近年は、その座をUAEやカタルに奪われ、地盤沈下が著しい。

その原因の一つが、政府と議会の対立による政治の停滞であったことは容易に想像できる。政府主導のプロジェクトが議会の反対や妨害にあって、なかなか前に進まなかったのは前述のとおりである。他の中東諸国にない自由や民主主義は、クウェート人の自慢でもあったが、それが経済発展を妨げる要因となっているのは皮肉であろう。

実際、多くのクウェート人が、他の湾岸諸国と同様の「開発独裁」のほうが効率的だと主張するようになっており、日ごろ民主化や人権についてやかましい西側の専門家のなかにも、首長による議会閉鎖を、これで脱炭素を含む、さまざまなプロジェクトが進みやすくなるとして、ポジティブにとらえるものが少なくない。

今後4年のあいだに、クウェート人がどのような選択をするのか判断はむずかしい。だが、1989年の議会再開運動のときのような、民主化を待望する空気は、今の中東ではかならずしも主流ではない。

現在、世界全体で中国やロシアなど権威主義体制の影響が強まっており、中東でもそれは例外ではないのである。




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