月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月22日 11時40分
茜 灯里(作家・科学ジャーナリスト)
<2019年に探査機が月面に衝突。搭載されていたのは、あらゆる過酷な環境に耐え得るクマムシだった。水も酸素もエサもない環境だが...>
2019年4月、イスラエルの月探査機「ベレシート」は民間初の着陸成功を目指したが、高度150メートルでトラブルに見舞われ時速500キロで月面に激突した。
問題は炎暑、厳寒、真空、乾燥、放射線とあらゆる過酷な環境に耐え得る「地球最強生物」の呼び声が高いクマムシが、探査機に数千匹も搭載されていたことだ。
月には空気も水もなく、昼は110℃、夜はマイナス170℃になる。月面で被ばくする放射線は、日本での200倍にもなる。しかしクマムシは、時速2600キロの衝撃や、月面で1年間に被ばくする放射線量の約1万倍に耐えるという研究がある。
さらに、体内水分の95%を失うと代謝を止め「乾眠」して150℃~マイナス270℃の極端な温度や真空に耐えられるようになる。しかも水をかけると復活可能で、乾眠から30年後に活動再開したケースもある。
フランス国立自然史博物館のローラン・パルカは、クマムシは月面激突の衝撃や強い放射線には耐えられたものの、水、酸素、エサとなる藻類がないため、現時点では月で増殖していないだろうと語る。しかし地球生物が月面を汚染し、「復活」のきっかけを待っているなら問題だ。
ベレシートには「創世記の最初の章」という意味がある。月のアダムとイブになるのは、地球から持ち込まれたクマムシかもしれない。
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