マクロンの賭けで大混乱のフランス...3極化した下院、増長する極右、改憲で「第6共和政」に?
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月24日 11時22分
つまり、フランスには連立政権の伝統が存在しない。従って、当然ながら現状は混乱ムードだ。どの党が、どの程度の規模の多数派として、どのように国を治めるのか──。
この第3ラウンドは今夏いっぱい続く見込みだ。フランス政治はどこへ向かうのだろう? 新たな下院はかつてない影響力を持つはずだ。半大統領制のフランスでは近年、大統領が任命する首相の権限が目に見えて縮小している。
だが下院は完全に分断化し、いずれの勢力も多数派として動けない。3つのブロックが根深く対立し、連立経験が不在の状況では特にそうだ。そのため、政治の不安定は長期化するとみる向きが多い。
新政権がどんな形になっても、法案可決は困難になり、不信任投票が頻発する可能性がある。不安定化が加速し、議会運営は行き詰まるだろう。そうなれば、マクロンは1年後、新たな解散・総選挙に踏み切るかもしれない(大統領が下院解散権を行使できるのは1年間に1回限り)。
選挙で「ユダヤ人差別」
改憲の動きが起こる可能性もある。
新人民戦線の最大政党で、急進左派の「不服従のフランス」を率いるジャンリュック・メランションは12年以来、連続3回出馬した大統領選で、新憲法を制定する会議の設立を公約している。これは事実上、現在の共和政体の解体と「第6共和政」への移行を意味する。
決選投票前の7月初旬、フランスでは極右勢力の「違反行為」が広く報じられた。決選投票に残った国民連合候補計109人が、人種差別・性差別・ユダヤ人差別発言や陰謀論を表明していたという。
「有権者が私たちに最後のチャンスを与えている」。新人民戦線から出馬した著名ジャーナリストのフランソワ・ルファンは、決選投票後の勝利演説で支持者にそう訴えた。「暗黒が勝利を収めかけていた瞬間に、光が戻ってきた」
望みを託した有権者を失望させない責任は大きい。新人民戦線は選挙戦で抜本的改革を公約。法定最低賃金の月額1600ユーロへの引き上げ、特定の生活必需品の価格凍結、インフレに連動した公的部門の賃金上昇などを掲げる。
一方、極右は27年実施予定の次回大統領選の勝算に目を向けている。普通の市民のための政治を行う「反エリート主義」政党とアピールするだろうが、現実に企てているのは富裕層向けの減税や反移民政策、人種差別感情の拡大だ。
分断されたフランスの溝は今後も広がり続けるだろう。
Benoit Dillet, Senior Lecturer in Politics, University of Bath
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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