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「評価されること」と「売れること」が必ずしも一致しない「冷徹な現実」...『中央公論』編集長として考え続けた2年間

ニューズウィーク日本版 / 2024年7月31日 11時10分

イスラエルの攻撃を受けたレバノンの首都ベイルート郊外。イスラエル支配下のゴラン高原でレバノンを拠点にするイスラム武装組織ヒズボラによると疑われる攻撃により民間人12人が死亡して以降、中東情勢は一段と緊迫している。(写真は7月30日) Reuters TV via REUTERS 

五十嵐 文(『中央公論』前編集長、読売新聞論説副委員長) アステイオン
<「売れなくても中身が良ければいい」と開きなおるつもりはないが、「売らんがため」では総合誌の存在意義が失われかねない。デジタル時代における、紙の雑誌の役割について> 

興業で満員御礼になると出る「大入り袋」は、雑誌がよく売れた時にも配られる。

月刊誌『中央公論』編集長を務めた2年間で、最初にして最後の「大入り袋」は、「最新版 消滅する市町村744全リスト 全国1729自治体の9分類データ付」と題して人口問題を特集した2024年の6月号だった。

2014年にも話題になった増田寛也元・総務相らによるリポートの最新版ではあったが、人口減少という地味なテーマがこれだけ売れたのは、正直言って意外であったのと同時に、かなりうれしかった。

国や自治体の関係者に限らず、出身地が気がかりな都市住民など、人口問題に関心を寄せる「当時者」は、実は結構いるのかもしれない。

特集では、紙幅を惜しまず、すべての自治体の詳細なデータを、編集部独自の注釈なども加えて収録した。

そこに価値を見いだしてくれた読者には、もともとの『中央公論』の購読者のみならず、これまで手の届かなかった「潜在的な読者」がいたのだと思っている。喜びの理由は、そこにある。

すぐに答えは見つからない地味なテーマでも、切り口や見せ方次第で、より多くの読者とつながることができる。

その営みは、新聞やテレビなど、締め切りに追われ、視聴率を気に懸け、日々消費されていく情報に多くの時間とエネルギーを費やしている他のオールドメディアとも、一時の関心を集めるためなら情報の信ぴょう性すら問わないアクターが跋扈するネット空間とも、違った役割が残されているのではないか――。

編集長を退き、毎月の特集を決める重圧から解き放たれた今でも、そんなことを考え続けている。



『アステイオン』の創刊100号で、「『言論のアリーナ』としての試み」という特集を組んだことに心を動かされたのも、雑誌ならではの役割、特性を追求しているという意味で、この記念号が発刊される2カ月ほど前の『中央公論』(24年4月号)での「荒れる言論空間、消えゆく論壇」という特集と、問題意識が重なっていると感じたからだ。

「ネット上に玉石混交の言説があふれる今、何をどのように問うのが知的ジャーナリズムの使命なのか」。記念号の巻頭言にあった田所昌幸の問いかけが、それを端的に示している。

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