ハリス、副大統領から大統領候補へ...「マダム・プレジデント」の誕生なるか
ニューズウィーク日本版 / 2024年8月2日 10時50分
付け加えれば、もともと無党派層にはトランプもバイデンも嫌いという人が多い。しかし候補者の顔が変われば、そうした「ダブル嫌い」の有権者にも新たな選択肢ができる。こうした点を考慮すると、ハリスへの支持は今後も高まりそうだ。
民主党議員の中には、まだハリスの正式指名に異議を唱える者もいる。しかしハリスは既に党重鎮の支持を固め、他の潜在的な候補者を圧倒し、党全体のエネルギーを活性化させている。しかも、一度は消えかけていた「トランプを倒せる」という希望に再び火をともした。
潔い指名辞退で有終の美
民主主義における政治的な競争には普遍的な公理があり、候補者はもっぱらライバルとの比較において判断される。バイデンがもっと早く撤退しなかった理由の1つは、トランプを負かし、民主主義を守るには誰よりも自分が適していると心から信じていたからに違いない。
しかしハリスのほうが自分より強いという世論調査のデータを見たとき、バイデンはついに折れた(長年の盟友たちから強く撤退を求められたという事情もある)。
ロイター通信の世論調査によると、ハリスはロバート・ケネディJr.が入った場合、トランプに誤差の範囲を超える4ポイントの差をつけている。予期せぬ支持率急増の一因は、若くて快活な女性と、78歳のトランプという対比がもたらす見た目のインパクトだ。本稿執筆時点での賭け市場を見ると、ハリスは今回の選挙を五分五分のところまで押し戻している。悲惨な討論会直後のバイデンに比べると、勝算は倍になった。
バイデンの撤退は広く称賛を浴びている。予備選で民主党の指名を簡単に勝ち取った後、選挙戦から撤退するという決断を下すことができた大統領候補はバイデンだけだ。
バイデンの行為は、高い道徳性、至高の愛国心さえ感じさせるものだ。これでハリスが最終的に勝利すれば、彼は真の政治家として歴史に名を残すことができるだろう。逆に、自分の悪あがきでトランプ再選を許すことになったら、この4年間の大統領としての業績はその輝きをほとんど失ってしまう。バイデンはそのリスクを十分に理解していた。
それでもバイデンは撤退を望まなかった。彼が降りたのは、党内の不和と選挙資金の枯渇が悪化の一途をたどり、トランプに勝つ可能性が絶望的に低くなったからだ。
最終的に引導を渡したのは、長年にわたり下院議長を務めた民主党の重鎮、ナンシー・ペロシだったらしい。またバイデンがすぐに副大統領のハリスを後継に推したのは、自分が副大統領時代に後継者に選ばれなかった心の傷を忘れていないからだろう。
バイデンはアメリカという国家への忠誠を重んじる男だ。だからこそ自らの選挙戦継続を断念すると、すぐに無条件で副大統領のハリスを後継に推した。まさに有終の美を飾る潔い決断。おかげで民主党は8月の党大会における混乱を回避でき、その混乱に乗じてトランプが点数を稼ぐ事態を防いだ。しかもわずか1週間で、新たな候補者に導かれた民主党は失点を取り戻すことができた。
さあ、ここからはカマラ・ハリスの勝負だ。互角以上の勝機はある。そのときアメリカ人の語彙には、新たな単語が加わるだろう。「マダム・プレジデント」と。
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