「バランスを失った」米連邦最高裁が下級審の判事たちにこき下ろされる
ニューズウィーク日本版 / 2024年8月2日 19時27分
エイハーンは、最高裁は最高位の裁判所というだけでなく連邦司法の頂点であり、判事が最高裁について発言することは「リスクがある」と認める。
「願わくば、最高裁の判事たちがこのような事態に自分がどう対応するかを考える際に、その点を考慮してほしい」
下級裁判所の判事は最高裁の判断を実行に移す責任を負っており、彼らの批判に最高裁が耳を傾けることは重要だと、ヒューストン大学のベーダスは言う。
「下級裁の判事が最高裁は誤った判断を下していると思ったら、それを無視しようとしたり、非常に狭い範囲で適用しようとしたりする可能性が高くなるだろう」
最終決定権は最高裁にあるが、下級裁判所の全ての判断を取り消すことは不可能だろう。また、上級審による判決の破棄が下級審の判事に対する抑止力になるとは限らないとも、ベーダスは言う。
この点についてテートルは、自分が知っている判事の誰もが、最高裁の判決を適用するために最善を尽くしていると反論する。
「私たちは、たとえ同意できないものでも、最高裁の判決に拘束される。自分は賛成できないから従わない、などと言う判事がいるとは思えない」
身内からの批判に直接答える最高裁判事はいないが、最高裁は世論の変化に注意を払い始めているようだ。
最高裁が「その正当性を維持するためには国民の支持が必要」なのだから、判事たちもそうした批判に応えることが重要だと、ノースイースタン大学教授で最高裁に詳しいダン・ウルマンは言う。
「最高裁はさまざまな面で、中絶と銃を持つ権利に関しては特に、世論とずれている。今期は経口中絶薬や危険人物の武器所持の禁止などの問題で、中道路線に戻るかもしれない」
ウルマンが本誌にそう語った翌日、最高裁は経口中絶薬の流通を制限するように求める訴えを退け、全員一致で入手と使用を引き続き認めた。
ロー対ウェード判決が破棄されてからわずか2年で、中絶は憲法で認められた権利だと主張する擁護派が巻き返したのだ。さらにその1週間後には、ドメスティックバイオレンス(DV)で接近禁止命令を受けた加害者の銃保有を禁止する連邦法を、合憲と判断した。
「彼ら(最高裁)の全ての判断に問題があるわけではない。最近の判断には非常に優れたものもいくつかある。全てではないが、多くの重要な判断に問題があるという意味だ」と、テートルは言う。
「最高裁の再審理の対象になった多くの控訴審判事が、同じように言うだろう」
テートルは5月に最高裁が、銃規制派の圧力に反発した全米ライフル協会(NRA)に言論の自由を認める裁定を下したことと、消費者金融保護局(CFPB)に異議を唱える保守派の上訴を退けたことを挙げて次のように語る。
「最高裁は、非政治的で、理路整然とした意見を書くことができる。ただ、ごくまれにしか、それがなされていない」
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