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奪った命は取り戻せない。だから死刑廃止を訴え続ける

ニューズウィーク日本版 / 2024年8月6日 11時17分

戦いは続く 死刑制度の廃止を実現するために活動する林欣怡 OMAR HAVANA/GETTY IMAGES

林 欣怡(リン・シンイー)(台湾死刑廃止推進連盟事務局長)
民主化の進んだ台湾にもまだ死刑制度があるそして私は無実の死刑囚をたくさん見てきた

初めて死刑囚に会ったのは1999年のことだ。当時の私は台湾のNGO「民間司法改革基金会」で働いていて、拘置所で3人の若い死刑囚と面会した。そしてすぐ、この人たちは無実だと確信した。

その後、殺人罪で死刑判決を受けた盧正という人にも会った。もっと取材を続けたいと思ったが、2000年に死刑を執行されてしまった。そのとき私は、死刑なんて制度は廃止しなきゃいけないと確信した。

死刑という制度があれば、たとえ無実の人でも政府は殺せる。でも取り返しはつかない。そう気付いたとき、私は自分で行動を起こさなくちゃいけないと思った。

2000年の選挙で今までとは違う党の人が総統になり、初めて死刑廃止の議論が持ち上がった。私たちは勇気づけられ、03年に「台湾死刑廃止推進連盟」(TAEDP)を結成した。最初は無実の死刑囚を助ける活動に専念した。

それから幅を広げて、全ての死刑執行の停止と、死刑制度そのものの廃止を求める運動へと発展した。

21年に、全ての死刑囚に面会する活動を始めた。彼らの声を、生で聞きたかったからだ。すると、彼らの多くが適切な支援を受けていないことが分かった。犯行時には自分をコントロールできなくて、間違った判断を下してしまったと悔いる人もいた。

刑務所暮らしはつらい。長く続けば、なおさらだ。誰も面会に来なくなる。死別や離縁で、だんだんと家族もいなくなる。

刑務所の夏は暑く、冬は凍える。独房には水道がなく、トイレには扉もない。私たちは彼らのためにカウンセラーを手配し、彼らが心の扉を開き、少しでも楽になれるよう支援してきた。

変化を起こす積み重ね

私にとって、蘇建和と劉秉郎、荘林勳の3人が最高裁で無罪を勝ち取り、釈放される場面に立ち会えたのは最高の思い出だ。

この3人は強盗、強姦、殺人の罪で死刑判決を受けていたが、有罪とする証拠には矛盾があり、不自然なところがあった。警察の取り調べで拷問を受けた疑いもあった。

ちなみにこの3人は、私が99年に台北の拘置所で会った人たちだ。みんな10年以上も獄中にいて、ようやく無罪を勝ち取った。実に感慨深い。

一方、支援してきた人たちの刑が執行されたときは気が重くなる。自分の犯した罪を悔い、反省していた人の場合は、特につらい。

今は1989年に死刑を宣告された邱和順の再審請求に取り組んでいる。この事案では国際人権団体アムネスティ・インターナショナルも力を貸してくれている。

幸運なことに、私は多くの仲間に支えられて活動している。だから独りで戦っているのではないと感じている。

今後は死刑制度の全面廃止を政府に求めていきたい。簡単ではないだろうが、私たちは諦めない。仲間はたくさんいる。諦めなければ、まだ死刑を続けている日本のような国も変わるのではないか。

死刑囚のために行動を起こしてくれる人を見ると、私の胸は熱くなる。もっと多くの人がそうしてくれるといい。

小さなことでいい。1枚の葉書を出すとか、SNSで何かを発信するとか。その積み重ねが変化につながる。すぐには変わらなくても、やり続ける。継続が大事だ。


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