革命防衛隊の「大失態」...ハマス指導者の暗殺という赤っ恥で、イランは本気で「中東大戦」に突き進む?
ニューズウィーク日本版 / 2024年8月23日 18時15分
日頃から用心深いテロ組織の指導者たちもたいていは、イランなら安心と考えている。例えば2008年にシリアで暗殺されたヒズボラ幹部イマド・ムグニアの娘の回顧録によると、父親はイランの領土内にいれば安全と信じていたという。国際テロ組織アルカイダの幹部サイフ・アル・アデルも、今はイランに住んでいる。伝えられるところでは、アイルランドを拠点とする国際犯罪組織キナハンなど、ヨーロッパ系の暴力団体の幹部らもイランに身を寄せているらしい。
DIMITRIOS KARAMITROSーISTOCK (MAP)
イランの革命防衛隊は、テロリストに居場所を提供することを通じて彼らと親密になり、自らの共闘部隊として利用してきた。イランに滞在する面々は優雅な暮らしを満喫しつつ、戦闘員の訓練やテロ計画の策定に従事している。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道によれば、昨年10月7日にイスラエルとガザの境界線を突破したハマス戦闘員の一部は、イラン国内で革命防衛隊から訓練を受けていた。
だがイスラエルの工作員は厳戒態勢だったはずのテヘランで、革命防衛隊の守る施設内でハニヤを殺害できた。こうなると「イランなら安全」という認識は覆される。イランとその代理勢力との関係も、今までどおりとはいかないだろう。
シリアでザヘディが殺害されたのも、20年にイラクで革命防衛隊のガセム・ソレイマニ司令官が暗殺されたのも、現地に潜む外国のスパイのせいだと言い訳できた。しかし今回のハニヤ暗殺は革命防衛隊のお膝元で起きた。
革命防衛隊がメンツを失うことを恐れているのは、ハニヤの滞在先に爆発物が持ち込まれたという西側の報道を即座に否定したことからもうかがえる。非難をそらすために当局は近くから飛翔体が発射されたと述べたが、その一方でゲストハウスの関係者20人以上を逮捕し、警備手順の見直しに着手してもいる。
潜入スパイを一掃せよ
首都で賓客が殺害されたとなれば、ただでさえ疑心暗鬼のハメネイが動揺しているのは間違いない。外国からのスパイ潜入を警戒する彼は、事あるごとに情報機関の幹部を粛清してきた。09年に大統領選の結果について市民の抵抗運動(いわゆる「緑の革命」)が起きたときも、革命防衛隊関連の人事刷新を断行した。
22年6月にも大規模な粛清があった。革命防衛隊の諜報部門を率いる聖職者のホセイン・タエブが解任され、後任に職業軍人のモハマド・カゼミ准将が起用された。カゼミは政権内に潜む敵のスパイを摘発する防諜部隊を率いていた人物だ。聖職者に代えて実務型の職業軍人を据えた背景には、革命防衛隊の国外での活動を活性化する狙いもあったとされる。だが、それでも首都でのハニヤ暗殺を阻止することはできなかった。
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