黒澤映画の傑作『七人の侍』公開70周年の今、全米で再び脚光を浴びる理由
ニューズウィーク日本版 / 2024年8月23日 16時30分
ジョーダン・ホフマン(映画評論家)
<公開70周年を記念する復刻版が全米で上映中。ハリウッドにも影響を与えた黒澤映画の大傑作を見直す意味>
ニューヨーク大学映画学科の新入生の頃、筆者と仲間たちには一風変わった合言葉があった。学内で出会ったら、まず「今日はコメの薄がゆ」と呼びかける。すると相手は「明日はヒエ!」と答える。
この合言葉、元ネタは黒澤明監督の『七人の侍』(1954年)にある。当時、私たち学生は「ショット・リバースショット」や「第四の壁」といった映画作りの概念を学ぶために、この映画史に残る偉大な作品を授業の初日に見せられた(まだスマホで映画を見られる時代ではなかった)。退屈な課題かと思ったら違った。ショックを受けた。セリフが骨に染み付いた。それで奇妙な合言葉ができた。
『七人の侍』は公開70周年を機に4Kリマスターされ、この夏、全米の映画館で公開された。私もこの「勝ち目のない戦いに挑む正義の味方」の活劇を改めて見た。そして昔と同じようにショックを受け、同じように楽しんだ。
【動画】4Kリマスター『七人の侍』米国版予告編
ラシュモア山に彫られたアメリカの大統領4人の肖像のように、20世紀半ばに登場した外国映画の偉大なキャラクター4人の彫像を作るとしたら、『七人の侍』で三船敏郎が演じた野性的な剣士・菊千代は確実にその1人となる。
その横に並ぶのは、たぶんイングマール・ベルイマン監督の『第七の封印』(57年)でマントをまとった死に神、フェデリコ・フェリーニ監督の『8½』(63年)で黒い帽子をかぶったマルチェロ・マストロヤンニ、そしてフランソワ・トリュフォー監督の長編デビュー作『大人は判ってくれない』(59年)でジャンピエール・レオが演じた反抗的な少年だろう。
黒澤は『羅生門』(50年)で既に国際的に知られていたが、『七人の侍』は国内での興行的成功と同時に、心躍る物語で世界を魅了した。
戦後の日本映画は当初、封建時代の話を忌避していた。領主への無条件の忠誠などという概念は過去の遺物とされていたからだ。
あの時代の日本映画の名作と言えば、小津安二郎監督の『東京物語』(53年)と本多猪四郎監督の『ゴジラ』(54年)だ。前者は老人を使い捨てる近代性への痛切な批判であり、後者は被爆国・日本のいわば集合的黙示録だった(その後のシリーズでは、日本映画の稼ぎ頭に変身したが)。
対して『七人の侍』の舞台は16世紀の戦国時代。多くの武士が主君を失い、しがない傭(やと)い兵となっていた。その一部(7人)が、なぜか正義のために力を合わせて農民を守ろうと立ち上がる。それは古典的ヒロイズムを踏まえつつも、戦後日本の時代の空気を反映した作品だった。
この記事に関連するニュース
-
朝ドラ「ばけばけ」ヒロイン夫 トミー・バストウ、黒澤明作品に影響…好きな日本俳優は「三船敏郎さん」
スポニチアネックス / 2024年11月27日 13時13分
-
あなたが好きな“サムライ映画”は? 映画.com&ユーザーおすすめ35選
映画.com / 2024年11月24日 11時0分
-
三船敏郎×チャールズ・ブロンソン×アラン・ドロン共演『レッド・サン』4Kデジタルリマスター版公開決定
シネマトゥデイ 映画情報 / 2024年11月18日 17時0分
-
ロボ相手でも孔明の罠炸裂!? 良きにしろ悪しにしろ原作改変がすごいロボアニメ3選
マグミクス / 2024年11月11日 12時10分
-
初代ゴジラ造形助手・鈴木儀雄が明かす貴重な制作秘話 最初のスーツは怒られた「重くて、動けないと」【第37回東京国際映画祭】
シネマトゥデイ 映画情報 / 2024年11月4日 0時31分
ランキング
-
1今さらどのツラ下げて? 東山紀之に芸能界復帰説…性加害補償が一段落、スマイルアップ社は解散か?
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月28日 16時3分
-
2「こんな顔だっけ」西野カナ、復活ライブでギャル路線から“演歌歌手風”への激変にネット困惑
週刊女性PRIME / 2024年11月28日 17時30分
-
3演出家・谷賢一氏 セクハラ告発女優との和解を報告 告発から2年「地道に努力し、信頼回復に努める」
スポニチアネックス / 2024年11月28日 16時41分
-
4戸田恵梨香が“細木数子物語”で女優復帰! Netflixが昭和ドラマ戦略で描く勝ちパターン
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月27日 16時3分
-
5篠田麻里子 所属事務所「サムデイ」破産に声明「直前に知らされたため…」ファンらへ「申し訳ありません」
スポニチアネックス / 2024年11月28日 14時5分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください