愛らしく哀れみ誘う......そんなロバの印象を一変させた恐怖体験
ニューズウィーク日本版 / 2024年9月3日 17時46分
それはにらみ合いだった。僕は行き場がなく、ロバは明らかに僕の存在をお気に召していなかった。ロバが何度も僕の腹を押し、地面を踏みつけ、「じろじろ見つめる」(頭を左右に振っては左目でにらみ、右目でにらむ)間に、僕はロバにどんなふうに痛めつけられるのだろうかと想像する時間がたっぷりあった。
ロバが「ただフレンドリー」ではなかったことは、言及しておく価値がある。けたたましい鳴き声は「縄張り意識」の表れで、彼が僕と仲良くするためだけに近付いてきたわけではないことを示している。だからなでたりしようとしなかったのは正解だったし、僕が優しい声で話しかけたのも役立ったかもしれない(無意味だったかもしれないが、悪意はないからね、と話しかけてみた)。
いつ噛まれてもおかしくないと思ったので、せめてTシャツではなく長袖を着ていればよかったと思った。ロバの歯が大きくてあごは強靭そうなのが見て取れた。ロバは後ろ脚で人を蹴るという話しか聞いたことがなかったから、蹴られることはないだろうと(間違って)考えた。
後ほど調べると、ロバは通常は背後の人を蹴るものだが、それはある種の「事故」だということが分かった。ロバの後ろから近づくとロバの死角になるので、たとえおとなしいロバであっても、悪意を持って忍び寄られていると感じて本能的に蹴るのだという。
でも僕の場合は、おとなしいロバを相手にしていたわけではない。わざわざ身を起こして前脚で僕を蹴ることだってやりかねなかったわけだ。
実は次の日、地元のロバ農場を運営しているウィルという気さくな男と話したところ、あのロバの前では思いつきもしなかったのだが、ロバは横にも蹴ることができるのだと教えてくれた。良かったのは、僕が1つだけ完璧に正しい対応を取ったと彼が言ってくれたこと――ロバに一度も背中を見せなかったことだ。僕はロバからのメッセージを受け止めたことを示すため、向きを変えて「静かに立ち去ろう」と考えた。でもどうやら、ロバはむしろこれをチャンスと見ていたはずだ。
僕は今、ロバの行動についてかなりのことを知っていて、しかもそれはかなり興味深い。ロバよりはるかに大きな親戚である馬だったらほとんどの場合、何かしら危険を察知すると逃げ出すものだが、ロバは本能的に「逃げる」より「戦う」ことが多い。ロバは一歩も引かない。ロバの鼻面を叩いてこちらがボスであることを思い知らせてやろう......などと試していたら、大変なことになっていただろう。
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