エルサレムで発見された2700年前の「守護精霊印章」...その希少性と謎
ニューズウィーク日本版 / 2024年9月4日 17時0分
アリストス・ジョージャウ
<エルサレムで約2700年前の印章が発掘された。守護精霊が刻まれたこの希少な石工品は、ユダ王国の高位者に由来し、新アッシリアの文化的影響を伝えている>
およそ2700年前のものと思われる「極めて希少かつ特異な」石工品が、エルサレムで発掘された。
【画像】エルサレムで発見された2700年前の「守護精霊印章」
出土したのは黒い石でできた印章で、エルサレム旧市街にある神殿の丘(別名アルアクサ)の南壁付近で、イスラエル考古学庁とダビデの町が発掘した。同地はユダヤ教、イスラム教、キリスト教の聖地とされる。
石には古ヘブライ文字で名前が刻まれ、翼をもつ精霊が描かれていた。イスラエル考古学庁のフィリップ・ヴコサヴォヴィッチが本誌に語ったところによると、この石工品はお守りや、文書を封印する印章として使われていたらしい。
「この印章は古代エルサレムの発掘で見つかった出土品の中でも特に美しく、最高水準の芸術が施されている」。イスラエル考古学庁の発掘責任者を務めるユヴァル・バルークとナヴォット・ロムはプレスリリースでそう指摘した。
印章は上下を貫く穴が開けられており、チェーンを通して首にかけることもできる。中央に描かれた有翼の精霊は、縞模様が入った長い衣をまとい、右の方へ足を踏み出している。長いカールの髪が首元を覆い、頭には帽子または王冠が載っている。
手のひらを開いて腕を伸ばした姿は、手に何か持っていることの表れのようだ。
ヴコサヴォヴィッチによると、こうした有翼の像は、一種の守護精霊のような存在として、紀元前9世紀から7世紀の新アッシリア美術で盛んに描かれた。つまりこの印章は、アッシリア帝国(首都エルサレムを含むイスラエル人のユダ王国を征服した古代近東の一大文明)の影響を物語る。
「これは極めて希少で特異な発見だ。有翼の『ジーニー』、つまり守護精霊が見つかったのは、イスラエルでも、地域考古学においても初めてだった」(ヴコサヴォヴィッチ)
精霊の両側に刻まれた古ヘブライ文字の碑文は、ローマ字にすると「Le Yeho'ezer ben Hosh'ayahu」と読める。
ハイファ大学の研究者ロニー・ライヒは本誌の取材に対し、「(Yeho'ezerは)よくある名前だった」と説明する。
研究チームによると、この石工品はもともと、ユダ王国で高い地位にあったHosh'ayahuという名の男性が首にかけていたお守りだったらしい。男性が自分の権力の象徴として身に着けていた可能性もある。
「制作したのは地元の職人のユダ人だったと思われる。職人は持ち主の求めに応じてお守りを作っていた。芸術的水準は非常に高い」(ヴコサヴォヴィッチ)
専門家は、Hosh'ayahuの死後、息子のYeho'ezerが印章を受け継ぎ、精霊の両側に2人の名を刻んだという仮説を立てている。いずれの名前も、捺印すると判読できるよう、左右を反転させた鏡文字で記されていた。
「ユダでは像と文字の組み合わせ、とりわけ新アッシリアの像は一般的ではなかった」とライヒは話している。
(翻訳:鈴木聖子)
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