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社会的孤立で記憶力は低下する、孤立していなくても「孤独感」で衰える【最新研究】

ニューズウィーク日本版 / 2024年9月6日 11時15分

孤独はこれまで考えられていた以上に記憶力の低下を招く可能性が DMP/ISTOCK

パンドラ・デワン(科学担当)
<「使わなければ失われる」仮説に研究チームは注目した>

加齢に伴う記憶力の衰えは、本人が孤独感にさいなまれていると加速されるらしい。

WHO(世界保健機関)は昨年、社会的孤立は高齢者の4人に1人が経験する「世界的な公衆衛生上の懸念事項」だと宣言した。過去の研究によっても、社会的孤立や孤独感が人々の精神的・肉体的健康に深刻な影響を及ぼすことは知られており、心疾患や高血圧、糖尿病、鬱病や不安神経症などのリスク増大に関連しているとの指摘もある。

ウォータールー大学(カナダ)の研究チームが5月に学会誌「老年学・老年医学研究(Archives of Gerontology and Geriatrics)」に発表した論文によると、社会的孤立や孤独感は記憶力の衰えにも関与している可能性がある。

社会的孤立と孤独感は併存することも多いが、同じものではない。社会的孤立は客観的指標で、個人の社会的接触の数で決まる。一方の孤独感は主観的なもので、独りぼっちで孤立しているという感情を指す。客観的には孤立していない状況でも、人が孤独感を抱くことはある。

研究チームは中高年の成人を対象に、6年間にわたって調査を実施。被験者は①社会的孤立と孤独感の両方がある、②社会的孤立のみ、③孤独感のみ、④社会的孤立も孤独感も認められない──の4グループに分類された。

論文の筆頭執筆者で同大学公衆衛生学大学院の博士課程に在籍するジ・ウォン・カンによると、「社会的孤立と孤独感の両方が認められる人は記憶力の低下が最も著しく、調査対象の6年間で状態が一段と悪化していた」。

社会的ネットワークとの交流が減ると記憶力の衰えにつながる

ここまでは予想どおりだが、意外な発見もあった。「従来は主観的な孤独感を考慮せず、社会的孤立の影響だけに注目する研究が多かった。しかし社会的孤立とは言えないのに孤独感を抱いている人でも、記憶力の衰えが顕著に見られることが分かった」と、カンは言う。

一方、社会的に孤立していても孤独感を抱いていない人の場合は、1人でも行える読書やパズルなどの「脳トレ」でメンタルな能力を維持している可能性があるという。

これらの活動と記憶力の関連性は明らかでないが、研究チームはいわゆる「使わなければ失われる」仮説に注目している。「この仮説では、社会的ネットワークとの交流が減ると記憶力の衰えにつながると考える。メンタルな能力の刺激に欠かせない物理的、心理的ないし社会的活動への関与が薄れるからだ」と、論文は記している。

孤独感による心理的なストレスでホルモンバランスに乱れが生じ、脳細胞間のつながりにダメージを与えている可能性もある。いずれにせよ、加齢に伴って記憶障害のリスクが高まっている人に対しては地域社会で支援する取り組みが必要だと、カンは言う。

「孤独を感じている高齢者はたいてい低所得で、構造的な壁や健康上の問題で地域社会とつながれなくなっている場合が多い」と、彼女は語る。「彼らが孤立を深めないような対策、例えば移動支援や家庭訪問などが必要だ」

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