祈りと歌と食でつながる、東京の一角にあるエチオピア正教会
ニューズウィーク日本版 / 2024年9月18日 11時0分
正教会集会は週末、葛飾区や墨田区のコミュニティセンター、個人住宅、あるいは工場等を借りて行われる。参加者は毎回、30人から40人程の在日エチオピア人である。
朝7時半にアムハラ語聖書の朗読からスタートする集会は午前10時近くになると盛り上がってくる。男女が向かいあい、讃美歌メズムルを歌い始めるのだ。
毎回ソロのパートを見事に斉唱する女性、アステルは横浜市内からやってくる。彼女は普段、フランス人家庭の家政婦をやっている。
儀礼全体の進行を司る中年男性アブレさんは陸上選手として来日したが、怪我で競技を断念し、現在は板金工場で働く。
その他、廃油再生処理工場や自動車工場の労働者、介護職関係者、飲食店のウェイターもいる。在日エチオピア大使館の職員も数人いる。さらに関東の大学院に所属する留学生も参加している。
杖とツェナツル 太鼓をもって讃美歌を歌う(筆者撮影)
会の後半、歌い手たちは儀礼用の木製の杖、さらにツェナツルと呼ばれる金属製の楽器を持つ。
この楽器を左右に揺らしてシャリン、シャリンと小気味よいリズムを刻み、杖の先で床を打ちつける。これは、鞭打たれるイエス・キリストの姿を象徴的に表現する。
さらに、ツェナツルの左右の揺れと太鼓のビートは、群衆から打たれ、よろめきながらもゴルゴタの丘にむかい歩みをすすめるイエス・キリストの姿を表すのだそうだ。
聖書の朗誦(筆者撮影)
聖書の朗誦、説法、讃美歌の歌唱が休憩をはさまずに延々と続く。参加者の歌声が重なりうねり、会場は熱気に包まれる。
すると司会のアブレさんが必ず、「周りは住宅街なので、あまり大きな声で騒がぬように」と参加者に注意する。司会者としての彼の一挙一動に近隣住民、ひいてはホスト社会への過剰なまでの配慮がみられる。
集会後にふるまわれるインジェラ(筆者撮影)
正午を過ぎ、儀礼がひと段落すると、エチオピアの主食、インジェラ(テフというイネ科の穀物でできた灰色のパン)にたっぷり、おかずの肉類がのせられた皿が参加者にふるまわれる。
日本では入手不可能なエチオピアのスパイス等を自宅からそれぞれ少しずつ持参し、会場で料理をこしらえるのだ。数人で円になり、羊肉や鶏肉を手でインジェラに包んで頬張る。厳粛な儀礼を終え、故郷の味に舌鼓を打つ参加者たちのこぼれそうな笑みが目に焼き付く。
なじみある異郷と
日本社会の橋渡し
葛飾のエチオピア移民の結節点 リトルエチオピアレストラン(筆者撮影)
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