崩れた信頼の再構築...イスラエル軍が挑むガザ戦争の「真の意味」
ニューズウィーク日本版 / 2024年9月10日 14時40分
ラファエル・S・コーエン(ランド研究所上級研究員)
<ハマスの奇襲攻撃を許た徴兵主体の軍は国民の信頼回復に躍起>
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム主義組織ハマスによる昨年10月の奇襲攻撃は、イスラエル軍と国民の関係を根底から揺さぶった。なにしろ、1日であれほど多くのユダヤ人の命が犠牲になったのは、ナチスドイツによるユダヤ人大虐殺以来のこと。そんな事件が起きることを許してしまったのだ。
それ以来、アメリカの多くの政府高官や議員、そして元将軍など国防関係者が、ガザへの対処方法についてイスラエルに助言を申し出てきた。
だが、その多くは無視された。理由はたくさんある。イスラエルにおける軍の位置付けは、米軍とは根本から異なる。その兵力も、アメリカのような職業軍人ではなく、徴集兵により支えられている。この点を指摘する識者は多いが、それが意味することは十分理解されていない。
イスラエル軍は、建国の父であり、初代首相であるダビド・ベングリオンが「人民の軍隊」と呼んだように、イスラエル社会を反映した構成になるよう設計されている。
これまでにも、職業軍人を中心とする軍隊に切り替えるべきかどうかをめぐり活発な議論が交わされてきた。また最高裁は6月、超正統派ユダヤ教徒にも、これまで免除されてきた徴兵を行うよう命じる判決を下した。現時点では、イスラエル軍はイスラム教ドルーズ派など、少数派も含む構成になっている。
徴兵制のおかげで、軍がイスラエル社会で特別な地位を享受している側面もある。軍に対する信頼は低下したとはいえ、2021年の時点では、ユダヤ系国民の75%以上が、軍を「非常に、またはかなり」信頼していると答えた。軍幹部はちょっとした有名人であり、退役後に政界に進出することも多い。大物軍人の葬儀はテレビ中継される。
だが、今や軍上層部には、奇襲攻撃を許した大失態を犯したという屈辱感が大きくのしかかっている。現役および退役将校と話をすると、軍が組織としてだけでなく、イスラエルという国の基礎をなす存在として「国民の信頼を回復する」必要性を語る声が聞かれる。
そのプレッシャーは、ガザ戦争へのアプローチにも影響を与えている。この戦争は軍の名誉挽回や、治安を回復することだけでなく、国家の基礎を立て直す戦いでもあるのだ。だからハマスの奇襲攻撃後、軍上層部は、ガザに大規模な地上軍を送り込みたいと考えた。
36万人の予備兵を直ちに招集
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