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『万葉集』も『古今集』も中国の2大ポルノに触発された...『詩経』と『遊仙窟』とは?

ニューズウィーク日本版 / 2024年9月21日 9時40分

憶良といえば、大伴家持や柿本人麻呂と並ぶ『万葉集』の顔と評価されているが、彼が持ち帰った『遊仙窟』は上司である大伴旅人から、その息子で『万葉集』編さんの中心的役割を担った大伴家持へと伝えられたのである。家持は『万葉集』の中に『遊仙窟』から着想した和歌を十数首残しているほか、同時代の歌人たちにも影響を与えたのである。

『遊仙窟』が与えた影響は歌の面だけではなかった。漢文を日本文に読み替えるためには訓読みの仕方や返り点など様々な決まり事があるが、『遊仙窟』ブームの後には同書を読み解く際の決まり事が漢文読解の基本型として定着したのである。

その点を『広辞苑』(岩波書店)は「万葉集以降の文学に影響を与え、またその古訓は国語学上の重要資料」と指摘している。要するに『遊仙窟』という中国のポルノ小説は、日本の国語の歴史にも大きな影響を及ぼしたのである。

一方、『古今集』は905年に成立した。『万葉集』に遅れることざっと150年、平安時代の宮廷文化が花開かんとする時であった。これが大変な人気で、清少納言は『枕草子』の中で、『古今集』を暗唱することが当時の貴族にとって欠かせない教養とみなされたと記している。では『古今集』は『詩経』からどんな影響を受けたのか?

その影響を端的に示すのが『古今集』(真名序)である。『古今集』には仮名序(平仮名がきの序文)と真名序(漢文の序文)の二つの序文があり、冒頭にある仮名序では紀貫之の「歌とは何か」という和歌の定義や扱うべき素材、表現の方法などが精細に述べられている。一方、巻末にある仮名序は紀淑望によるものだが、そこには和歌のことがこう定義されている。

「和歌に六義あり。一に曰く、風。二に曰く、賦。三に曰く、比。四に曰く、興。五に曰く、雅。六に曰く、頌」

この言葉は前述した『詩経』そのままで、詩とは何かという根本の命題を『詩経』から借用しているのである。

『詩経』ではこの後、女性の性的な欲望がさまざまな形で謳われているのだが、『古今集』(真名序)の場合、在原業平や小野小町などを引き合いに出しながら、歌作りには情欲と向き合うことが必要であると説かれている。

下川耿史(しもかわ・こうし)
1942年、福岡県生まれ。著述家。風俗史家。著書に『10代の遺書』『日本残酷写真史』『異常殺人カタログ――驚愕の200事件』(以上、作品社)、『遊郭をみる』(林宏樹との共著、筑摩書房)、『死体と戦争』『日本エロ写真史』『変態さん』(以上、ちくま文庫)、『世紀末エロ写真館』『殺人評論』『死体の文化史』(以上、青弓社)ほか。編著に『環境史年表』(昭和・平成編/明治・大正編)、『近代子ども史年表(明治・大正編/昭和・平成編)、『家庭史年表(昭和・平成編/明治・大正編)』、『性風俗史年表(明治編/大正・昭和戦前編/昭和戦後編)』(以上、河出書房新社)ほか多数。

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  下川耿史[著]
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