プーチンは「金正恩閣下を慕い尊敬している!」 北朝鮮「噓八百」講演会、国民は呆れ顔で聞き流していた
ニューズウィーク日本版 / 2024年9月20日 17時25分
住民のロシアへの憧れや期待感の大きさを警戒する北朝鮮当局
両江道(リャンガンド)の情報筋も、現地で同様の政治講演会があったことを伝えた。
上述の通り、講演会の内容は8月と9月でガラッと変わったが、これは住民のロシアに対する憧れ、期待感の大きさを北朝鮮当局は警戒してのものだ。食糧難が続く中で、かつて韓国を含めた国際社会から食糧支援を得たように、ロシアからも食糧が入ってくるのではないかという期待が非常に大きい。
このような期待は尾ひれがついて暴走しがちで、裏切られた場合に、その怒りは党や政府、金正恩氏に向かう。そこで、期待を一掃すべく、ロシア批判を行ったが、今月に入ってその手法を変えたということなのだろう。
さて、当局が正確に意図していたものがどのような形でのソフトランディングだったかはわからないが、金正恩氏を激賛する講演会の内容は、冷笑をもって迎えられた。
「ロシアの大統領が元帥様を慕って、その最大の誠意として乗用車を送ったというくだりでは、公演会場が冷ややかな空気に包まれた。一部からは『自分が国家元首なら、車の代わりに、国民が切実に求めている食糧を受け取っただろう』との反発の声も聞こえた」(情報筋)
(参考記事:金正恩氏の「高級ベンツ」を追い越した北朝鮮軍人の悲惨な末路)
続いて、「世界各国が金正恩氏と会いたがっている」との内容に差し掛かったが、住民はまともに耳を傾けていない様子だったとのことだ。
どんな「いい話」を聞こうとも、腹が膨れるわけではない。ましてや聞き慣れた低レベルの偽情報など、聞くだけ時間の無駄だと考えているだろう。
食糧を海外から取り寄せて配給すること、勤労動員や税金外の負担を住民に強いないこと。金正恩氏が国民の心をつかむにはこの2つが欠かせないだろう。
[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。
※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
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