恩師を殺害したバスジャック犯の少年に、5年後「つらかったね」...本当にあった「再生」の物語
ニューズウィーク日本版 / 2024年9月23日 14時35分
「居場所」を始めたばかりの頃には、「どうにかしてあげなくては」と思う私がいたのです。わざわざ来てくれている人に、何か「おもてなし」や「サービス」をしなければならない、というのが習い性になっているのでしょうか。 一方、私の思いやふるまいとは別に、来ている子どもたちには、子どもたちの感じ方があります。不登校の子どもは、大人がどのような気持ちで自分たちに向き合っているのかを敏感に感じとる子が多いようです。「何かしなければ」と思っている私は見透かされ、「俺たちは、なんもしてもらわんでよか!」とズバリ言われました。(113ページより)
子どもたちを「ありのまま受け入れよう」と考えるようになったにもかかわらず、無意識のうちに「どうにかしてあげよう」としていた自分自身に矛盾を感じたわけである。
もちろん、そこに思い至ることができたのは、娘の不登校問題とバスジャック事件があったからなのかもしれない。とはいえ、紆余曲折を重ねながらも、こうした思いにたどり着いたことの価値は大きいのではないか。
「あなたの罪を赦したわけではない。赦すのはこれからです」
なお、事件をきっかけとして「居場所」をつくってから数年が過ぎ、事件から5年を経ようとするころ、著者は少年と面会することになる。
あの、か細かった「少年」は、見違えるほど体格の良い青年に成長していました。私は驚きと共にその姿に見入ってしまいました。5年の歳月は、確実に流れていました。「少年」は、「大変なことをして申し訳ありません」と言いながら深々と頭を垂れ、謝ってくれました。(中略) 私はそれを、心からの謝罪だ、と感じました。 教官が「少年」のそばにある椅子を勧めてくれたので、私はぎこちなく座り、思わず彼の背中に手をやり、さすっていました。さすりながら、「これまで誰にも理解されず、つらかったね......」と声をかけました。そして、「だけど、あなたの罪を赦したわけではない。赦すのはこれからです。これからの生き方を見ているから......」と伝えました。(171〜172ページより)
それから間もなく、「少年」から手紙が届いたそうだ。
山口さんと出会い、申し訳ない思いを伝えた時、山口さんは泣かれました。私のことを思って泣いてくれました。私はそのとき、自分の罪深さと温かい思いが同時に湧き起こりました。(173ページより)
その言葉が嘘のないものだと思えたことで、著者は「私との面会は彼の心に響くものであったのだ」と実感できたという。
『再生 西鉄バスジャック事件からの編み直しの物語』
山口由美子 著
岩波書店
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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。他に、ライフハッカー[日本版]、東洋経済オンライン、サライ.jpなどで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)、『書評の仕事』(ワニブックス)など著作多数。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。
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