習近平も演説で引用...トンデモ論文が次々生まれるほど、諸葛亮が中国で一目置かれている理由とは?
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月5日 10時0分
ただ、これらの自由奔放な描写の数々も、彼のステレオタイプなイメージが日本社会で完全に定着しているために生まれたものにほかならない。
一方、本場の中国でも『三国志演義』は広く読まれ、諸葛亮も根強い人気がある。 中国の伝統的な講談や京劇では、曹操などの魏の武将が悪役として設定されてきたが、近年は彼らを魅力的なキャラクターとして描いた日本側の人物解釈も逆輸入されている。
もっとも諸葛亮については、日中間での解釈の差が比較的小さく、蜀に忠誠を誓い人格的にも立派な天才軍師、というイメージは共通している(『演義』からの直接の影響が強い中国のほうが、諸葛亮の妖術師的な面を大きく捉える傾向はある)。
諸葛亮については、日本語の「三人寄れば文殊の知恵」と同じ意味の「三個臭皮匠勝過諸葛亮」(凡人も3人集まれば諸葛亮に勝てる)や、事態が終わってから賢しらに解説してみせる行為を指す「事後諸葛亮」など俗語的なことわざやスラングも多い。現代の中国人にとっても身近な存在ということである。
ゆえに、習近平の演説のなかで諸葛亮の言葉が引用されたケースもある。 比較的有名なのは、「受命以来、夙夜憂歎、恐託付不効」(意訳:使命を引き受けて以来、自分が果たすべき責任を意識せぬときはない)という一節の多用だ。これは諸葛亮が北伐にあたって君主の劉禅に奏上した『出師表』の言葉である。
最初に引用されたのは、2014年9月ごろの演説だったとされるが、この引用句はその後も党大会が開かれる年(2017年や2022年)ごとに『人民日報』などでしばしば取り上げられ、習政権を象徴する言葉の一つとなっている。
近年、習近平は「我将無我不負人民」(意訳:私は私心をもたず人民に背かない)というスローガンをプロパガンダに用いるようになったが、この言葉とセットで引用されるケースも多いようだ。
「孔明の南蛮行」がポジティブに解釈される理由
中国において、歴史は単なる過去の出来事ではなく、現代の政治的な問題を肯定したり否定したりする材料として活用する対象だ。こんにちの価値観をもとに、数百年以上も昔の人物の言動を論じる行為はナンセンスに思えるが、中国はそれを非常に好む国である。
たとえば諸葛亮の場合、近年の中国では「南征」をポジティブに論じることが増えた。 南征とはすなわち、劉備の病没後に益州(現在の四川省)南部で起きた反乱に対して、諸葛亮が自ら軍を率いて出兵し、そのまま南中(現在の雲南省・貴州省)方面まで遠征した出来事である。
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