トランプに異変? 不屈の男がここにきて「愛」を語り始めた訳
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月8日 17時0分
サム・ポトリッキオ
<2020年大統領選の敗北すら認めていないトランプが、11月に負ける可能性を認めるなんて...突然のキャラ変は戦略なのか>
11月5日の米大統領選投票日まで1カ月。対抗馬のハリス副大統領にわずかなリードを許しているトランプ前大統領は、逆転でのホワイトハウス奪還に向けてイメージ戦略を修正し始めた可能性がある。
トランプといえば、7月の最初の暗殺未遂事件の直後に、頰に血が付いたまま高々とこぶしを突き上げた姿に象徴されるように、戦闘的なイメージが強い。ところが、おそらくは選挙戦略の一環として、このところ少しソフトなイメージを打ち出しているように見える。
9月22日放映のインタビューでは、もし11月の大統領選で敗れれば2028年の大統領選には出馬しないだろうと述べた。これは、3つの点で驚くべき発言といえる。
まず、トランプは不屈のファイティングスピリッツの持ち主として支持者に愛されてきた人物だ。今まで負けたまま戦いを終わりにしたことはなく、いつも「倍返し」をしてきた。敗北した場合に再挑戦しないという発言は、トランプという人間の根幹を成すイメージを揺るがすものだ。
それに、敗北の可能性を認めることがそもそもトランプらしくない。国民の支持を得ているという点で、自分はほかの誰も寄せ付けないと言い続けていたからだ。
しかも、トランプはいま共和党を完全に手中に収めていると言っていい。その玉座を息子に譲り渡せるという確信がない限り、わざわざ自分からその座を手放すことは、これまでの振る舞いからは考えにくい。
次回の大統領選には出馬しないと語ったインタビューでは、柄にもなく謙虚な言葉も使っている。「うまくいけば」選挙には勝てるだろう、と述べたのだ。
過去の不誠実な言動の数々を考えれば、全ての言葉を額面どおりに受け取ることはできない。しかし、これほど極端なイメージ転換に踏み切るのは、それなりの計算があってのことだろう。実際、新しい戦略によって、大統領選で勝つために不可欠な3つの有権者層に働きかけることが期待できる。
第1に、自身の熱烈な支持層に対し、もし今回の選挙で負ければトランプ時代が終わりになるという危機感を持たせ、一層熱心に選挙運動を行わせることができる。トランプ支持層のかなりの割合は、トランプ以外のリーダーなど全く考えられないと思っている。
第2に、共和党支持者の中でも、トランプが前回大統領選の敗北を受け入れていないことを苦々しく思っている層へのアピールも期待できる。最近の発言により、トランプが民主的な選挙を尊重し、今回は負けても受け入れるつもりらしいと思えれば、この層は共和党の大統領候補であるトランプに投票しやすくなる。
第3に、トランプの傲慢な言動にうんざりしている無党派層の考えを変えさせる効果もあるかもしれない。「ハリスは好きではないけれど、トランプはあり得ない」と思っている有権者をハリスから奪える可能性が出てくるのだ。
以上の分析を裏付けるかのように、トランプ陣営が支持者に送っている電子メールの文面にも変化が表れている。「愛」という言葉が多用されているのだ。ほぼ全ての電子メールで、トランプは支持者を「愛している」と述べている。これまでのイメージとはまるで懸け離れた言葉遣いだ。
どう評価するにせよ、トランプが近年のアメリカ政治で誰よりも強力な存在感を放ってきたこと、そして今までしぶとく生き残ってきたことは、紛れもない事実だ。今回のイメージ戦略の転換は、彼がアメリカ政治の最重要人物であり続けるための切り札になるのだろうか。
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