ヤマハvsカワイ「仁義なきガチバトル」の歴史...浜松発の二大ピアノメーカーはいかに競い、世界的企業になったのか
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月30日 11時0分
しかしピアノが庶民にアクセス可能な物品となるためには、製品価格の高さとレッスン料の高さという2つの「壁」を乗り越える必要があった。
1950年代後半、ヤマハはいよいよピアノの大量生産に着手した。驚くべきことに、このときモデルとされたのは、缶詰工場や自動車工場であった。要するにベルトコンベア生産を核とする、大量生産システムである。
他方でJIS規格に適合的な生産を行うなど、「質」の改善にも尽力、あくまで「工業製品」としてのピアノ、という観点から低コスト・高品質の生産を実現した。
こうしてヤマハは、欧米のピアノメーカーが成し遂げなかった「質」と「量」の両立に成功し、海外市場の獲得にもつなげていった。
加えて同時期、ヤマハは「ヤマハ音楽教室」を開設、特約店を通して全国に展開した。その特色は集団指導による低価格のレッスン料と、「ヤマハ・メソード」に基づくレッスン標準化である。つまりヤマハは音楽教育の「大量生産」と「標準化」も実現した。
生徒の多くは楽器を習い始めた子どもであったため、音楽教室の存在はピアノの販路確保にも貢献した。このようにして大量生産と顧客囲い込みの双方を成功させたヤマハは、他の追随を許さない世界的ピアノメーカーの座へと登りつめていくのであった。
カワイの巻返しと「原器工程」
さて、躍進するヤマハを前に、カワイはいかにして巻返しを図ったのだろうか?戦後の会社再建に出遅れ、販売網と知名度の劣位に悩むカワイの社長に、他業種の営業マンが囁いた。
「競合に勝ちたかったら、人より先に売ればよい」
この言葉をヒントとしてカワイが編み出したのが、1960年に開始した「予約販売」である。いつか子どもにピアノを習わせたいと願う親から契約を取り、毎月少額の積立金を支払わせ、満期にピアノを渡すという販売方式である。
通常の分割払いよりも月々の負担が軽かった「予約販売」は多くの親の心を捉え、カワイは巻返しに一定の成功を収めた。同時期に大量生産システムも導入、地歩を固めながら、海外市場へも進出していった。
この他、カワイの特徴的な点としては、大量生産システムとは相容れないはずのクラフト的工程を取り入れた点である。これは「原器工程」と呼ばれ、職人が良質なピアノづくりを目指し、試行を重ねる実験的工程である。
この工程があればこそ、カワイのコンサートグランドピアノが「ダミ声で周囲を圧する田舎娘」から、「なんとも典雅で独創的な美しい響きをかもしだす」(中村紘子『どこか古典派』)ピアノへと変貌を遂げたのだろう。
この記事に関連するニュース
-
貴重な「松本ピアノ」、演奏権を返礼品に 千葉・君津
毎日新聞 / 2024年11月6日 15時53分
-
第3回カフェトークオンラインピアノコンクール出場者募集開始、どこに住んでいても参加可能、ボーダーレスな発表と挑戦の場を
PR TIMES / 2024年11月2日 13時15分
-
【M&Aベストパートナーズ×100万人のクラシックライブ】10月26日(土)に遊観(徳島県)にて、クラシックライブを開催!
PR TIMES / 2024年10月23日 13時15分
-
大河ドラマ「光る君へ」の世界観を再現する オーケストラ・コンサートのチケットが即日完売!
@Press / 2024年10月20日 10時0分
-
今月のスペシャルインタビューは角野隼斗さん 『月刊ピアノ 2024年11月号』 2024年10月19日発売
@Press / 2024年10月18日 12時0分
ランキング
-
1ハリス氏の敗因探る民主党 理念先行型の争点設定が不発、バイデン氏を糾弾の声も
産経ニュース / 2024年11月7日 8時53分
-
2著名教授、大統領選勝利予測外す 過去40年、ほぼ全て的中も
共同通信 / 2024年11月7日 9時8分
-
3オーストラリアの駐米大使、トランプ氏批判を削除 大統領選勝利受け
AFPBB News / 2024年11月7日 12時59分
-
4「黒人ナチ」スキャンダルの米共和党候補、ノースカロライナ州知事選で敗北
AFPBB News / 2024年11月7日 8時37分
-
5132年ぶり2人目の大統領返り咲き、トランプ氏「すべてを米国第一にする」「再び偉大な国に」
読売新聞 / 2024年11月6日 21時52分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください