ヒズボラ指導者の殺害という「勝利の美酒」に酔うネタニヤフ首相だが、政権の足元は「崩壊」寸前
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月10日 17時34分
この危険な改革案には世論の猛反発があり、実現は難しいとみられていた。しかしそこへハマスとの戦争が起き、極右勢力に時ならぬ追い風が吹いた。極右のベツァレル・スモトリッチ財務相はパレスチナ自治区ヨルダン川西岸の統治に関する権限を掌握し、ユダヤ人入植者によるパレスチナ人への暴力を容認した。
国家治安担当相のイタマル・ベングビールも警察に対する支配力を強めている。彼らは口をそろえて、軍部や情報機関は弱腰で敗北主義者だと非難した。国軍幹部が画策し、ネタニヤフを失脚させるためにハマスの急襲を仕組んだという極端な発言まで出ていた。
ネタニヤフ自身は、10.7の責任を誰かに押し付ければ満足だったかもしれない。だが極右の宗教的保守派は、この機会に軍や情報機関から左派(つまり世俗派)を一掃したいと考えていた。
この試みはほぼ失敗に終わった。
同国のシンクタンク「ユダヤ人政策研究所」の調査によれば、ハマスとの戦争が長引くにつれて国軍への信頼は低下し、今年3月時点で75%だった軍部に対する信頼感は7月時点で43%まで落ちていた。
しかし、政府はもっと信用されていない。同じ調査で、政府への信頼感は同じ期間に35%から26%へ低下していた。別の世論調査でも、国民の多くは早期の総選挙を望んでおり、いま選挙が行われたら現政権は敗退するという可能性が示されている。
今のネタニヤフは対ヒズボラ戦勝利の美酒に酔っているが、その戦果をもたらしたのは軍と情報機関の実戦部隊だ。
しかも彼らの多くは予備役の軍人で、招集される前にはネタニヤフ政権の進める司法改革に反対するデモの先頭に立っていた。実際、ナスララの暗殺を敢行したF15飛行隊に所属する予備役兵士の過半数も、招集されるまではデモに参加していた。
それだけではない。9月の劇的な戦果は過去16年間にわたる緻密で執拗な情報収集活動のたまものだが、それを制服組トップとして率いてきたのはベニー・ガンツとガディ・エイゼンコット。いずれも今は野党の有力政治家だ。
つまり、無能だったのは軍や情報機関の指揮官ではなく文民の政治家だった。今の政権は最初の1年を無益な司法改革に費やした。10.7奇襲で多くの国民が犠牲になった後も、自らは地域住民の支援に乗り出さず、ボランティア任せにしていた。
ガザでの戦闘が長引き、アメリカとの関係が悪化しても、ネタニヤフはガザの将来的な統治に関する構想を示せずにいる。そして今も、そこには100人以上の人質がいる。
この記事に関連するニュース
-
イスラエル・レバノン停戦=米発表、対ヒズボラで転換点―ネタニヤフ氏「違反なら攻撃」
時事通信 / 2024年11月27日 16時10分
-
イスラエルとレバノンが停戦合意、60日の戦闘停止へ…ネタニヤフ氏「ヒズボラが違反すれば攻撃」
読売新聞 / 2024年11月27日 11時46分
-
イスラエルとヒズボラ、レバノン停戦で合意 発効は日本時間27日午前11時
産経ニュース / 2024年11月27日 7時5分
-
イスラエル首相「ガザ人質返還に報奨金」 1人につき7億8000万円、世論は「停戦を」
産経ニュース / 2024年11月20日 18時38分
-
ヒズボラ報道官をイスラエル軍が殺害 米特使19日にレバノン訪問 ガザは70人超死亡か
産経ニュース / 2024年11月18日 18時29分
ランキング
-
1中東、レバノン停戦を歓迎=イラン「犯罪者の処罰」訴え
時事通信 / 2024年11月27日 19時29分
-
2ウクライナ軍が米供与の「ATACMS」でロシア西部を攻撃 ロシア国防省が発表
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年11月27日 10時12分
-
3イスラエルとレバノンが停戦合意、60日の戦闘停止へ…ネタニヤフ氏「ヒズボラが違反すれば攻撃」
読売新聞 / 2024年11月27日 11時46分
-
4元首相派、デモ一時中止=首都で衝突、500人超逮捕―パキスタン
時事通信 / 2024年11月27日 15時36分
-
5ウクライナ代表団が訪韓、武器支援を要請=報道
ロイター / 2024年11月27日 14時25分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください