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「『阿吽の呼吸』でがん退治する抗腫瘍細菌」をさらにパワーアップさせた「遊び心」とは?

ニューズウィーク日本版 / 2024年10月16日 19時10分

一方、腫瘍組織そのものの中に細菌が存在していることは以前から知られており、最近は腫瘍の種類ごとに独自の細菌叢が形成されていることが分かっています。腫瘍内細菌叢は、抗がん剤の効果を補助したり阻害したりする場合があることも示唆されています。けれど、腫瘍内から取り出した細菌の性状を調べ、細菌そのものを癌の治療薬として活用する研究はこれまではありませんでした。

都教授らは、マウスの大腸がん由来腫瘍組織から3種の細菌の単離・同定に世界に先駆けて成功し、A-gyo(阿形:口を「阿」の形に開いている仁王像のこと)、UN-gyo(吽形:口を「吽」の形に閉じている仁王像のこと)、AUN(阿吽:A-gyoとUN-gyoから成る複合細菌)と名付けました。

細菌の性状を調べるために、大腸がんを皮下移植したマウスの尾静脈から投与したところ、腫瘍環境内で集積や生育、増殖が可能で、かつ高い抗腫瘍効果を示すことが分かりました。

特筆すべきことに、A-gyoとUN-gyoが合体したAUNは強烈にパワーアップし、大腸がん、肉腫(サルコーマ)、転移性肺がん、薬物耐性乳腺がんといった様々な種類のがんに対して強力な抗がん活性を示しました。まさに、2つの細菌が「阿吽の呼吸で」協力し合って、がんを倒したと言えます。

また、AUNは標的とする腫瘍内で近赤外蛍光を発現すること、マウスを用いた複数の生体適合性試験の結果、AUNそのものが生体に与える影響は極めて少ないことも分かりました。

つまりこれら3種の細菌、とりわけAUNは、蛍光によってがんの診断に役立ったり、新たながん治療法を提供できたりしそうです。また、それ以上に、これまでの常識を超え、細菌学や腫瘍微生物学などの研究領域に新しい概念を生んだことに価値があると言えます。

「遊び心」で課題をクリア

さて、AUNが実際に臨床医療で使えるほど腫瘍細胞に勝てるようになるには、より抗がん活性を上げ、増殖を容易にし、生体適合性を高める必要があります。

研究チームは今回、「細菌に居心地のよい住処(家)を与えればどうだろう」と「遊び心」で水槽用濾過材を与えてみました。

そもそも水槽用濾過材は、熱帯魚愛好者らが水槽内の水質浄化に使うもので、様々な種類や形のものを手軽に安価で入手できます。本来の用途は、水質汚染の原因となるアンモニアを分解する細菌が繁殖しやすいような住処を提供することです。もちろん、濾過材を使って培養した細菌を、水質浄化以外の目的で利用したという研究報告は、これまではないそうです。

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