ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせる作戦か、戦争でタガが外れたのか
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月17日 19時3分
「残酷な処刑シーンが撮影され、ソーシャルメディアでその映像が拡散されているのは、これからウクライナ軍に招集される男性やその家族を脅して、徴兵を忌避させるためだ」と、コバレンコは指摘する。
ロシア軍はウクライナ南部の都市ヘルソンで、故意に民間人を狙ってドローン攻撃を行い、その模様を撮影した映像をソーシャルメディアに投稿するなど、最近では戦争犯罪を隠すどころか、むしろ誇らしげに公表するようになったと、フィンランドの調査分析集団「ブラックバード・グループ」の軍事アナリスト、エミール・カステヘルミは本誌に語った。
「こうした行為は、組織的に奨励されている可能性がある。あるいは、戦争が長引き、ただ単に規律が乱れているのかもしれないし、(激戦地で)捕虜を扱うのは面倒だから(処刑しているの)かもしれない」
しかも、ロシア兵は戦争犯罪を行なっても「訴追される心配はないと思っている」と、カステルヘルミは言う。「ロシアの世論も、おおむねこうした行為を非難しない。社会的にも法的にも容認されていて、戦争犯罪への敷居が低い」
メッセージアプリのテレグラムには、数十万から100万人を超えるフォロワー数を誇るロシア人軍事ブロガーのチャンネルがいくつもある。クレムリンとつながりがあるこうしたチャンネルは、いわばクレムリンのお墨付きを得た宣伝マシンの立場で、ウクライナ兵捕虜の処刑を正当化するばかりか、賞賛しているのだ。
ISWによれば、捕虜処刑を讃えることで、「より広範なロシアの超国家主義者コミュニティーでは、戦争犯罪を正当化し、賞賛する文化的規範が強化」されているという。
いずれにせよ、残虐行為は軍事的には何の役にも立たず、「ロシア軍の規律とプロ意識の欠如」を露呈するのみだと、ヨーロッパ外交評議会の上級政策研究員であるグスターブ・グレッセルは本誌に話した。「ロシア軍だけでなく、ロシア社会全体がこの戦争を通じて、正常な人間性を失い、過激化している」というのだ。
「ウクライナ兵は最後の弾丸を自分のために残し、より激しく戦うだろう」と、グレッセルは言う。「事実、第二次大戦中にナチス・ドイツが捕らえた共産党員は銃殺しろと命じると、ソ連兵はいかに絶望的な状況でも降伏しなくなった」
「ウクライナが2023年に実施した反転攻勢の最中も、一部のロシア兵は降伏を拒んだ」と、グレッセルは言う。
グレッセルによれば、ロシア兵が降伏を拒んだのは、クレムリンの洗脳により、ナチスに協力したステパン・バンデラを自国の英雄と仰ぐウクライナ人は残虐極まりないと思い込んでいたからだという。
ロシア軍に処刑されたウクライナ兵捕虜は10月14日時点で102人に上ると、ウクライナ検事総長室は発表した。
【動画】座らせ、あるいは伏せさせて...ウクライナ兵捕虜の処刑場面
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