【総選挙】自民党と立憲民主党の「経済/外交/政治改革」の政策比較で分かった「異例」の現象
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月18日 17時2分
加谷珪一
<インフレ対策から最低賃金、地方創生、安全保障、政治改革まで。選挙公約や、これまでの主張を基に与野党の政策を見比べてみると......>
石破茂首相が衆議院を解散したことで、総選挙が事実上のスタートを切った。首班指名からわずか8日で解散という異例の短期決戦となっているが、自民党は選挙に当たって「ルールを守る」「暮らしを守る」「国を守り、国民を守る」「未来を守る」「地方を守る」「新たな時代を切り開く」という6つの柱を掲げた。
具体的には、政策活動費の透明性確保や旧文通費の使途公開など各種政治改革、物価高対策として低所得世帯を中心とした給付金の支給や教育無償化、地方創生については政府機関の地方移転などをうたっている。多発する災害に対処するため防災庁の設置に向けた準備も進める。
これに対して最大野党の立憲民主党は「政権交代」を前面に打ち出し、「政治改革」と「分厚い中間層の復活」を実現するとした。具体的には、企業・団体献金の禁止や国会議員の世襲制限、教育や給食の無償化、地域再生、共生社会などの項目を列挙している。
立憲民主党は自民党総裁選と並行して代表選挙を実施しており、枝野幸男前代表と野田佳彦元首相が激しく争った結果、野田氏が代表に就任した。野田氏は小沢一郎氏と共に野党連携に積極的とされ、保守的・現実主義的な政策を掲げることで政権交代を実現する方針といわれる。
実際、自民党の公約と立憲民主党の公約を比較すると、立憲が政治改革に対してより踏み込んだ提言を行っていることや、自民党内で異論が出ている選択的夫婦別姓を前面に押し出していることなどを除けば、それほど大きな違いは見当たらない。石破政権も大学の無償化や地方創生という項目を掲げているので、一見すると、どちらの公約なのか分からないくらいだ。
賃上げについてもほぼ違いなし
経済政策という点において両党とも最低賃金1500円という数字を掲げたところも興味深い。最低賃金については岸田政権が2030年代半ばまでに1500円を実現するとしていたが、石破政権はこれをさらに前倒しし、20年代に全国平均で1500円という思い切った数字を出してきた。これによって賃上げ政策における両党の違いはほぼ消滅しつつある。
外交・安全保障についても、所信表明にこそ盛り込まなかったものの、石破氏はアジア版NATO創設が持論であり、その実現可能性はともかくとして、アジアとの連携を軸に日米同盟を強化させる方向性を示している。立憲民主党も外交・安全保障分野においては、日米同盟を基軸とした上でアジア太平洋地域との連携強化をうたっている。大まかな方向性という点ではかなり近くなったとみてよいだろう。
10月27日に投開票が行われる総選挙において、最終的にどの党が躍進するのか、現時点では何とも言えない。だが基本的な政策に関しては、自民党が議席を守った場合においても、自民党が議席を減らしたり政権交代が実現した場合においても、大きな違いは生じないと予想される。
与党と最大野党の政策が似通っていることは、市場の安定化につながる一面がある一方、有権者からすると何を基準に候補者を選んで良いのか分かりにくいという部分も出てくる。
与党と最大野党の政策がここまで類似するというのは、これまでに見られなかった現象であり、これが選挙結果にどのような影響を及ぼすのか予想しづらい展開となっている。
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