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自民党と首相官邸を襲った「ローンオフェンダー」を軽視するな

ニューズウィーク日本版 / 2024年10月21日 9時20分

首相官邸に突入しようとした軽バン(中央奥、10月19日)Kim Kyung-HoonーREUTERS

北島 純
<衆院選のさなかに自民党本部と首相官邸を標的にしたテロが起きた。2022年の安倍元首相暗殺、2023年の岸田前首相暗殺未遂に続いて3年連続で「権力の中枢」を狙うテロが起きたことは、何を意味するのか>

10月19日早朝、黄色の防護服にガスマスクを付けた男が自民党本部に向かって液体を噴射し火炎瓶を投擲した後、首相官邸の正面入口を車で強行突破しようとして逮捕された(逮捕容疑は公務執行妨害罪)。2022年7月の安倍晋三元首相暗殺事件、2023年4月の岸田文雄首相襲撃(暗殺未遂)事件に続いて、またもや選挙の最中に「テロ」が発生したのは衝撃だ。

政治的背景の詳細はまだ不明なところが多いが、反原発デモへの参加、選挙における供託金制度への怒り、自公政権への批判といった事情を、同居していた父親(歯科医師)がメディアに証言している。被疑者のものと見られているX(旧Twitter)のアカウント(@Ussubot)は、権力批判、警察憎悪、天皇制批判と並んで、

「制限選挙で社会がよくなるなら、こんな事態には陥っていない。」(2023年3月6日)

「この国が民主主義的な制度であると盲信し、投票行動や人民の意識にあると考える全ての人に言いたいのは、この国の選挙制度は民主主義とは程遠いものであるということ。」(2023年2月4日)

「この国が民主主義だなんて、冗談にもほどがある。」(2022年8月6日)

といった書き込みを投稿している(ただし本人の書き込みである確証はない)。Facebookには、香港の民主化デモに参加したことも綴られていた。

自民党本部に対する攻撃と言えば、1984年9月の自民党本部火炎放射器事件が思い出されるが、これは左翼過激派による「組織的ゲリラ活動」だった。これに対して、今回の被疑者は、自民党本部を襲ったその足で首相官邸に突入する計画的連続性を見せる反面、軽自動車で首相官邸に突っ込むという無謀性を持っており、現時点では、「組織的背景のない単独犯」(ローンオフェンダー)だと見られている。

前代未聞の連続テロ

ニュース番組が報じた動画等を見ると、男が乗っていた白い車は4ナンバーの小型貨物自動車で、一般的に「軽バン」と呼称されている軽自動車だ。屋根の上にはルーフラックが装着され、拡声器やLED投光器が装備されている。素人工作で軽バンを街宣車仕様に仕立て活動家を気取っていたのかも知れない。

車内からは、ガソリンを入れたポリタンクも大量に発見された(報道によると16個)。事件直後に官邸前道路から撮影されたというSNSへの投稿動画を見ると、車は激しい火花をあげて燃えている。何らかのバッテリー素材が燃えていた可能性があるが、もし大量のポリタンクに入ったガソリンに引火していれば惨事になっていただろう。

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