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「国産メーカー優先」をやめたNTTドコモ...経済安全保障を最優先することで生まれるリスクとは?

ニューズウィーク日本版 / 2024年10月23日 11時3分

JOAN CROSーNURPHOTO-REUTERS

加谷珪一
<国内メーカーから機器を調達するのが慣例だったNTTグループのドコモだが、携帯電話基地局の通信機器選定で海外メーカーへの切り替えを進める方針だとされる>

NTTドコモが携帯電話の基地局で使用する通信機器選定に際して、国産優先の方針を転換すると報道されている。同社はNTTグループに属する企業であり、同グループはもともと富士通やNEC、沖電気工業など、旧電電公社時代から付き合いのある企業群(いわゆる旧電電ファミリー)から機器を調達するのが慣例となっていた。

だがここ10年の間に日本メーカーの技術力が著しく低下し、海外メーカーでなければ十分な品質を保てない状況となりつつあった。

ライバルであるKDDIやソフトバンクは既に海外メーカーへの切り替えを進めており、ドコモも海外シフトを進めようとしていたが、これに待ったをかけたのが日本政府だった。

いわゆる保守派の意向を強く受けた政府・与党は、NTTグループに対して、国産メーカー採用の継続を事実上、要請。同社はこれに従わざるを得なくなり、国内メーカー優先の方式を継続した。だが結果としてもたらされたのはドコモの通信品質低下である。

同社では、2023年頃から、目玉サービスである5Gのデータ通信速度が低下するという不具合が続いており、このままでは深刻な顧客離れが懸念される状況となっていた。サービス水準の低下にはさまざまな要因があり、一概には言えないが、通信機器の性能が一定程度、影響を与えているとの指摘は少なくない。

日本勢の世界シェアはわずか1%程度にすぎない

基地局通信機器のシェアを見ると、中国ファーウェイ(華為技術)、スウェーデンのエリクソン、フィンランドのノキア、中国ZTE(中興通訊)、韓国サムスン電子の上位5社で世界市場の90%以上を占めている。

富士通やNECのシェアはわずか1%程度にすぎず、事実上、市場での競争力を失っている状況だ。通信機器はシェアが全てであり、高いシェアを獲得できなければ巨額の研究開発費を捻出できず、さらに競争力が低下するという悪循環に陥る。

ドコモとしては、品質が高い海外メーカー製品を優先的に採用することは、ビジネス戦略上、まっとうで正しい判断と言える。だが、ここで問題となってくるのが経済安全保障との兼ね合いである。

日本の政界では保守派の影響力が強まっており、今回の自民党総裁選でも高市早苗・前経済安全保障担当相が石破茂首相と激戦を繰り広げた。保守派は経済安全保障を強く主張しているが、経済安全保障を最優先すれば今回のドコモのようなケースが今後、他の分野でも発生する可能性がある。

経済安全保障は極めて重要な政治課題だが、これを貫くのであれば生活水準が低下するリスクについても国民に説明する必要があるだろう。

一貫性のない政策こそ日本の安全保障の脅威

NTTグループについては政府が保有する株式を売却して売却益を防衛費増額の財源に充てる意見が出ているのだが、不思議なのは保守派の一部がこの方針に賛同していることである。

同グループは日本の基幹通信を支える存在であり、外国企業の手に渡った場合のリスクは大きい。経済安全保障を貫くのであれば、同社株式についても引き続き政府が保有するほうが合理的であり、株式を放出すれば経済安全保障政策と整合性が取れなくなる可能性がある。

一貫性のない政策は、日本の「安全保障」にとってまさに脅威であり、政府・与党は早急に同グループの経営方針について明確な方向性を示すべきだろう。



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