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渡り鳥の渡り、実は無駄...? 長年の定説覆す新研究

ニューズウィーク日本版 / 2024年10月24日 14時0分

渡り鳥の省エネ神話崩壊か Chris Briggs-Unsplash

トム・ハワース
<渡り鳥が温暖な地域へ渡るのは、エネルギーを節約するためだと信じられてきた。しかし、最新の研究はこの定説を覆し、渡りそのものが実際には無駄である可能性を示している>

渡り鳥をめぐって長年の定説を覆す研究結果が発表された。冬の寒さを逃れて温かい場所へ渡っても、実際にはエネルギーを節約できていないことが、最先端の小型記録装置を使った調査で明らかになった。

研究チームはこれまで知られていなかった渡りの生理学的コストを探る目的で、初めて秋から春にかけての渡りの全期間を通じ、野生のクロウタドリの心拍数と体温を30分ごとに計測した。

その結果は、渡り鳥は暖かい地域に移動することでエネルギーを温存しているという長年の定説を覆すものだった。

「鳥たちが寒い冬を抜け出しても全般的なエネルギー上のメリットはない、という発見は想定していなかった」。論文の筆頭著者でマックスプランク動物行動研究所研究員のニルス・リネックはそう解説する。

「動物は暖かい場所へ移動することでエネルギー消費が減る、というのは長年の教科書通りの定説だった。しかし我々の調査で、これが節約になっていないことが分かった」

高性能センサーで解明された「省エネ」戦略の限界

研究チームはドイツ南部で野生のクロウタドリ120羽に高性能センサーを埋め込んだ。ドイツにはスペインやフランスに渡る個体と、年間を通してドイツにとどまる個体がいる。センサーを通しておよそ約100万地点からデータを収集でき、これまで知られていなかった渡りの生理的負担の解明につながった。

驚いたことに、クロウタドリは渡りの際に未知の省エネ戦略を採用していることが分かった。リネックによると、クロウタドリは出発の3週間前に「体内のサーモスタットを下げて」代謝を減らしていた。

ただし、そうした渡りの準備をしても、温かい場所で冬を過ごす間の全体的なエネルギーの節約にはつながっていなかった。

「予想外だった」と筆頭共著者でイェール大学生物多様性・地球変動センターのスコット・ヤンコは言う。「今回の研究で行ったエネルギーモデリングの予測によれば、気候が温暖な場所では保温のコストが大幅に減ることから、渡りによって間違いなくエネルギーの余剰が生じるはずった」

暖かい場所での冬越しは本当に有利か?

暖かい地域で冬を過ごして体温を保つメリットは、隠れたコストによって相殺されているのかもしれないと研究者は推測する。

「仮説は幾つかある。同じ量の餌をとるためにもっと動き回らなければならないのかもしれないし、天敵に追いかけられている可能性もある」とヤンコは本誌に語った。

たとえ動くことにエネルギー上のメリットはなくても、繁殖上のメリットはあるかもしれない。

「温度調節によるエネルギー節約を繁殖のために使っている可能性もある。卵を大きくしたり、質を高めたりする助けになっているのかもしれない」(ヤンコ)

今回の研究には、鳥類の行動に関する理解を深める以上の意味がある。「渡りを支える生理学を理解することで、どの種が順応できるのか、どの種が渡りのパターンを変えるのか、地球温暖化に伴いどの種がリスク増大にさらされるのかを予測しやすくなる」。上級筆者でプランク研究所のグループリーダー、ジェスコ・パルテッケはそうコメントしている。

(翻訳:鈴木聖子)

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