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【インタビュー】苦悶するシンガー ニック・ケイヴが「私生活の悲劇」を乗り越え、たどり着いた『Joy』

ニューズウィーク日本版 / 2024年10月25日 14時24分

「バンドが進む方向をファンに決めさせることはしない。ファンのことはもちろん愛しているけれど、どんな音楽をつくるかには口出しさせない。どんなファンが本当に好きかというと、私たちが自分の気に召さない音楽をつくるかもしれないと理解し、それを歓迎してくれる人たちだ」

近年のケイヴは、音楽やインタビューで人への思いやりを見せることが多くなった。息子アーサーの死から3年後の18年には、オンラインニュースレターを立ち上げ、ほぼあらゆるテーマについてファンから質問を受け付けている。

「本来なら回答する資格なんて全然ないような質問に回答している。見方によっては全てが底抜けにばかげていると、気付いていないわけではない。でも、それがうまくいくときもある」と、ケイヴは言う。

「皮肉なのは、私が共感力のあるタイプではないということ。相手の気持ちに寄り添って回答しようとすると、頑張って自分の最も善良な部分を引き出さなくてはならない。たいてい、『くよくよ考えてもしょうがないよ』と答えたくなる。でも、『それが責任のある回答と言えるのか』と思い直す......この活動のおかげで、ほんの少しだけよりよい人間になれていると思う」

仕事よりも大切なこと

バッド・シーズのライブでは、心を揺さぶられる場面がたびたび生まれてきた。ケイヴはパフォーマンスの最中に観客の手を握ることがよくある。これもファンとの深い絆の表れだ。

「ステージの上ではいつも緊張していて、歌っている間、自分の手をどう動かせばいいのか分からなくなるんだ。ずっと動き続けていれば、音程を外してもバレないかもしれないという思いもある(笑)」と、ケイヴは言う。

「大勢の人たちの不安と愛が渦巻くなかでステージに出ていくときの気持ちは、どんな言葉にも言い表せない。それを軽く考える気持ちには全くなれない。私は音楽にとても真剣に向き合っている。音楽は、現実世界を超越した経験が許される数少ない機会だと思う。そのような機会は、もうほとんど残されていないように思える」

Nick Cave and The Bad Seeds - European and UK Tour 2020

ケイヴはさまざまな活動を精力的に行ってきた。バッド・シーズの活動に加えて、映画音楽の制作や書籍の執筆、陶器づくりなどにも力を注いできた。しかし、仕事とプライベートでの人間関係への向き合い方も変わった。

「物事に注意を払うようになった」と、ケイヴはその点を説明する。「仕事がうまくいっていれば全て問題なしと、ずっと考えてきた。仕事以外の人間関係に仕事の邪魔をさせないようにしていた。今ではそのことを後悔している」

「自分が世界でどのような存在なのかを知ることが重要だと思う。あなたは誰かの息子だったり、誰かの父親だったり、世界に生きる市民だったりするだろう......。そうしたことの一つ一つによく目を向けることの意味は大きい」と、ケイヴは語る。

「例えば、どうすれば最良の夫になれるのかと考えることに意義がある。どうすれば偉大なアーティストになれるかということばかり考えて、ほかのことは放置するより、そのほうがいい」

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