ウクライナ戦争に金正恩が「暴風軍団」を派遣...北朝鮮とロシアの接近に中国・習近平が苛立つワケ
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月26日 12時11分
木村正人
<中国の習近平国家主席から北朝鮮の金正恩に送られた書簡には「友好的な隣国」への言及がなく、両首脳の親交を記念する「足跡銅板」も取り外されたという>
[ロンドン発]中国の習近平国家主席は10月16日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記の中国建国75周年の祝辞に対して15日遅れで書簡を返した。「友好的な隣国」という伝統的言及はなく、緊密化する北朝鮮とロシアの軍事協力に対する習主席の不快感の現れとみられている。
「中国と朝鮮民主主義人民共和国は同じ山と川で結ばれ、両国の伝統的な友好関係は時の経過とともにますます強くなっている。私は同志総書記とともに、地域と世界の平和、安定、発展、繁栄を守るため、より大きな貢献をするつもりだ」との外交辞令を習主席は金正恩に伝えた。
金正恩が2018年に中国・大連を訪問した際、習主席と散歩して親交を深めたことを記念する「足跡銅板」も今年6月、取り外されたことが明らかになっている。韓国紙・中央日報が入手した写真によると、銅版があった場所は黒いアスファルトコンクリートで覆われていた。
中国と北朝鮮の「唇と歯の関係」に秋風が吹く
「血の友誼(ゆうぎ)」「唇と歯の関係」と言われる中朝関係に秋風が吹く。ウクライナ戦争で北朝鮮とロシアの軍事協力が一気に緊密化したのが原因だ。金正恩が「暴風軍団」と呼ばれる特殊部隊など1万2000人以上をロシアに派遣したことで習主席の苛立ちはピークに達する。
英紙フィナンシャル・タイムズ(10月25日付)は「金正恩がロシアのウクライナ戦争を支援するために軍隊を派遣する以前から、北朝鮮の主要な支援国である中国が、金正恩がモスクワとの関係を深めていることに不満を抱いている兆候があった」と分析している。
習主席はソ連・北朝鮮・中国の「北の三角形」が韓国・日本・米国の「南の三角形」と対峙した冷戦初期の再来を何としても避けたいと考えている。習主席はロシアのウラジーミル・プーチン大統領と金正恩の冒険主義には絶対に巻き込まれたくないのだろう。
ロシアへの軍派遣でルビコンを渡る金正恩
米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のビクター・チャ地政学・外交政策部長は「ロシアに軍隊を派遣し、ルビコンを渡る北朝鮮」と題したポッドキャスト(10月23日付)で「金正恩はプーチンが不当な戦争に勝利するよう全力で支援している」との見方を示している。
「122ミリメートル、152ミリメートルの砲弾800万発と弾道ミサイル数十発を送ることに加え、北朝鮮は今年6月に署名したロシアとの相互防衛条項を含む包括的な戦略的パートナーシップ協定の精神に基づく同盟コミットメントを提供している」(チャ氏)
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