日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...今後はさらなる「倒産増加」が予想される
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月30日 18時54分
加谷珪一
<粉飾決算や各種業法違反をきっかけに倒産する企業が過去最多ペースで増加している背景には、解決を先送りにしてきた日本経済の根深い問題がある>
このところ粉飾決算による倒産が増加している。以前から粉飾決算が発覚して倒産・廃業するケースは一定数、存在していたが、コロナ危機で手厚い政府の支援策が実施されていたことで、経営不振が表面化しにくい状況だった。
だがコロナからの景気回復に加え、金融正常化に伴う金利の上昇で銀行のスタンスに変化が生じ始め、これによって企業の資金繰りをめぐる環境が変わってきた。今後は、粉飾決算の表面化や倒産がさらに増える可能性がある。
帝国データバンクの調査によると、2024年1月~9月期における粉飾倒産(粉飾決算や各種業法違反をきっかけとした倒産)の件数は、前年同期と比較して27.6%増加し、3年連続で前年同期を上回った。このペースで倒産が続いた場合、24年通期においても、最多件数を更新する可能性が高いという。
企業が不正会計を行っていた場合でも、資金調達環境に大きな変化がなければ、そう簡単には外部に発覚することはない。粉飾決算を行う企業は、どの書類(あるいは数字)をどう変えれば外部から疑われないのか熟知しているので、取引先や金融機関側が、不正の存在を前提に動かない限り、表面化しにくいのが現実だ。
プロが見れば、粉飾が行われていることは何となく把握できるものの、十分な証拠がない状況で対応するのはかなり難しいといってよいだろう。
企業の会計不正が露呈するタイミングとは?
企業の会計不正が露呈するのは、ほとんどの場合、銀行など金融機関の融資姿勢が変化したタイミングである。
政府は20年、コロナ危機への緊急対策として、実質無利子・無担保で融資を行う、「ゼロゼロ融資」と呼ばれる支援策を実施した。支援策はパニック的な倒産を回避するという点で一定の役割を果たしたものの、経営が行き詰まっている企業を抜本的に救済するための仕組みではない。
企業の中にはゼロゼロ融資の返済がスムーズにできず、金融機関に対して返済猶予などを申し入れるところも出てきた。そうなった場合、銀行側は当該企業の経営状況について、改めて審査を行うことになり、その過程で粉飾決算の事例が表面化する。
こうした動きに拍車をかけそうなのが、日銀による金融正常化である。日銀が利上げを実施したことで、企業に対する貸付金利にも変化が生じている。東京商工リサーチの調査によると、46.3%の企業が既に金利が上がったと回答している。
金融機関による融資条件の変更は、支店長や担当行員の異動などをきっかけに通告されることが多く、場合によっては再審査が行われる。今までは審査対象になっていなかった項目もチェックされることになるので、粉飾が表面化しやすい。
倒産数の増加は本当に悪いことなのか
一般的に倒産数の増加は問題とされるが、一定数の企業が新陳代謝によって交代することは市場メカニズムが健全に機能している証左であり、倒産が少ない状態というのは問題が先送りされていることの裏返しでもある。経営に行き詰まった企業が倒産し、優良企業がその従業員や営業基盤を引き継ぐことは生産性の向上と賃上げにつながる。
幸いなことに今は空前の人手不足であり、企業倒産が増えても失業率が急増するリスクは少ない。粉飾倒産の増加と銀行の融資姿勢の変化は、来るべき時が来たというサインと捉えるべきだろう。
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