分断と失望の大統領選に立ち向かうニューヨーカー
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月6日 18時20分
K・C・コノリー(バーテンダー、映画製作者)
<ニューヨーカーに大統領選の投票理由を聞いてみたら、二極化の悲哀の向こうにかすかな出口が見えた>
アメリカは2つの非常に対照的なビジョンのどちらかを選ぼうとしている。ドナルド・トランプ前大統領か、カマラ・ハリス副大統領か。国外でも多くの人が、アメリカ人の選択に注目している。
北アイルランドから来て長年ニューヨークで暮らす私は、ビッグアップルの住人にはシニシズムが染み付いていることを学んだ。それは奇妙なくらい魅力的でもあるが、この眠らない街は今、ことさらシニカルで暗澹としている。
ニューヨークは民主党の牙城で、有権者はリベラル寄りの感情が強いようだ。しかし、マンハッタンの街角で5人のニューヨーカーに話を聞いたところ、この街の多様性が見えるのと同時に、アメリカ人は将来についてそんなに楽観していないことが分かった。
ブロンクス生まれのマイケル・ベガは政治に悲観的で、大統領選の投票システムに異議を唱える。候補者ではなく州の選挙人を選ぶ仕組みは自分の票が「無駄」になると感じ、投票に行くつもりはない。
パラマウント・グローバルの重役シンシア・トーマスは、こうした無関心さに強く反発する。「私は黒人だ。私の家族は、選挙権のように私たちが当然のものと思いがちな自由を求めて懸命に戦ってきた。トランプのような人物はそれを簡単に奪える。私はハリスを全面的に支持する」
ニューヨーク市警察のK・ドワイヤーは、トランプには欠点もあるが「新型コロナの襲来までは全てが順調だった」と語る。「戦争もなく経済は繁栄していた。(ジョー・)バイデンは最悪だ。国境を見れば分かる」。彼はトランプ支持の理由として移民の入国審査、治安、国境警備の費用に関するバイデン政権の無能な対応と、2020年に全米各地で抗議活動が起きた際の「民主党の政策の偽善」を挙げる。
ブルックリン出身でミュージシャンのトミー・レビンは、気候変動などの重要な問題が置き去りにされていると失望する。「私は26歳。同年代の人たちは、地球に差し迫った破滅に憤慨している」。彼はハリスに投票する。「(こうした問題を)真剣に考えているのは民主党だけだ」
彼らは選挙の結果がどうであれ、異なる価値観を受け入れられない。ただし、彼らには共通点がある。「選挙疲れ」だ。そして、この二極化がさらに悪い状況に変わるかもしれないと感じている。
私は1990年代に英領北アイルランドで育った。かの地ではカトリック教徒とプロテスタントの間で40年にわたり残虐行為や殺人が繰り返され、人間性が著しく欠落した状態が続いた後、98年に和平合意が締結された。
世界随一の超大国は、国民が激しく二極化してはいるが、1861~65年のような全面的な内戦の渦中にいるわけではない。北アイルランドの人々は困難な対話と前向きな妥協の必要性を認識し、対立より理解を選んだ。
最後に、元美術評論家のデービッド・L・シャーリーは、5人の中で最も年長で経験豊富なニューヨーカーだ。
「ニューヨーカーは寛容であることを誇りに思い、この街を自由なアイデアと表現の場だと考えている。本当にそうなら、政治的に対立する人々とも話ができるはずだ」
誰に投票するのだろうか。シャーリーは「君には関係ないよ」と言い、ウインクをして立ち去った。
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