投資家は「東京メトロ」をどう見るべきか...「今さら」上場になった特殊な理由と、今後の注目点とは?
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月14日 17時9分
加谷珪一
<時価総額が1兆円を超える大型案件として市場の期待を集めた東京メトロの上場だが、これから投資家に対して成長シナリオを示すことについては課題も大きい>
東京メトロが東京証券取引所に上場した。時価総額は1兆円を超えており、2018年に上場したソフトバンク以来の大型案件といえる。初値は1630円と売り出し価格を大きく上回っており、市場からの期待の大きさをうかがわせる。
一方で同社は、長年、公営事業としてサービスを提供してきたこともあり、ほとんどの収益を鉄道事業に依存している。今後の成長シナリオをどう描くのか課題も大きい。
東京の地下鉄はもともと民間企業が主体となって建設が進められ、現在の銀座線も、渋谷-新橋間と新橋-浅草間は別の事業者が運営していた。だが太平洋戦争に伴う国家総動員体制の下、強制的に国家による一元管理が実施され、1941年に東京メトロの前身である帝都高速度交通営団が設立された。
戦後も国家主導の経営が続いていたが、80年代に入ると行政改革が進められることになり、国鉄(現JR)や電電公社(現NTT)など、各種公営事業が次々と民営化された。営団地下鉄もその政治的潮流の中で民営化が検討され、最終的には小泉政権下で実施された特殊法人改革によって04年に株式会社化された。
最適な上場タイミングをつかめなかった特殊な事情
本来なら民営化のタイミングで上場が行われてもよさそうなものだが、東京メトロには少し特殊な事情があった。
同社の株式は政府と東京都が約半分ずつ所有しているが、都営地下鉄との一元化を望む東京都と調整がつかず、最適な上場タイミングをつかめなかった。当該問題はまだ解決していないが、政府が東日本大震災の復興財源の確保の必要に迫られたことなどから、今回、上場が決まった。
政府と東京都は上場に際して約半分の株式を放出しており、政府は1800億円の売却益を復興債の返済に充当する。政府としては取りあえず株式の売却に成功し、一息ついた状態だが、政府が売った株を購入した一般投資家からすれば、同社が今後も成長を続け、株価が上昇してもわらないと困る。
公営事業の期間が長かったこともあり、同社はいわゆる事業の多角化は進めておらず、売上高の9割以上を鉄道事業が稼ぎ出している。また地上に路線を持つ私鉄各社と異なり、大量の土地を所有しているわけではないので、不動産を中心としたビジネスも他社のようには進めにくい。
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