朝晩にロシア国歌を斉唱、残りの時間は「拷問」だった...解放されたアゾフ大隊兵が語る【捕虜生活の実態】
ニューズウィーク日本版 / 2024年12月5日 14時21分
尾崎孝史(映像制作者、写真家)
<「ロシアの調査員は私のIDカードを見てアゾフ大隊の兵士だと確認した」マリウポリのアゾフスターリ製鉄所で徹底抗戦を続けたのち、ロシア軍の捕虜となったウクライナ兵を待っていた過酷な捕虜生活とは──>
2年半にわたりロシア軍の捕虜となっていたが、今年9月に解放されたウクライナのアゾフ兵士の1人、キリル・ザイツェバが語った過酷な捕虜生活と、彼らの帰りを待ち続けた家族たちの様子を3回に分けて紹介する。本記事は第1回。
◇ ◇ ◇
「戻ってこられた!」
青と黄の国旗をまとい歓喜する丸刈りの兵士たち。秋晴れの今年9月14日、バスから降りてきたのはロシア軍に拘束されていたウクライナ兵103人だった。前日の49人と合わせ、2日連続で多くの捕虜を取り戻せたのはアラブ首長国連邦(UAE)の仲介が功を奏したからだという。
それまでロシアとウクライナの間で実施された捕虜交換は55回。合計で3500人以上がウクライナに帰っていた。しかし、マリウポリのアゾフスターリ製鉄所で徹底抗戦を続けたウクライナ国家警備隊、アゾフ大隊の捕虜については遅れていた。
「ウクライナからネオナチを撲滅する」と言って、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が開戦の大義名分にした部隊だったからだ。
今回、そのアゾフ大隊の捕虜が2日間で46人解放されたことに注目が集まった。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は捕虜解放時の写真と共に、こんなメッセージを発信した。「私たちはアゾフスターリの防衛隊員を解放することができた。ウクライナにとって良いニュースをもたらしてくれた担当チームに感謝している」
帰還したアゾフ兵士の1人、キリル・ザイツェバ(24)はポルタワ州ノビサンジャリにあるウクライナ国家警備隊の病院に運ばれた。息子の帰国を知った母のスベットラナ(56)が、避難先のドニプロペトロウシク州から駆け付けてきた。
ウクライナの定番スイーツ、ブリヌイを差し出すスベットラナ。「うーん、最高!」と言って、頰張るキリル。2年半のブランクを埋めるかのように2人はハグを交わした。
22年5月、親ロシア派メディアの動画に写った捕虜になった時のキリル
「聞いてはいけない質問だ」
筆者がキリルのことを知ったのは開戦の年、彼の妻に出会ったのがきっかけだった。2022年5月3日、ザポリッジャ州にある避難者受け入れ施設に世界中のメディアが集まった。ロシア軍に包囲されたマリウポリから避難できずにいた住民が脱出した、との知らせを受けてのことだ。
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