混乱続く兵庫県知事選、結局SNSが「真実」を映したのか?
ニューズウィーク日本版 / 2024年12月3日 15時32分
プチ鹿島
<公選法違反をめぐる紛糾も続くなか、そもそも「テレビや新聞はダメでSNSに真実がある」という二項対立の問題点を時事芸人のプチ鹿島さんは指摘します>
兵庫県知事選は斎藤元彦氏が再選を果たした。知事選の原因となった内部告発問題などが当初注目されたが、選挙戦では「前職の斎藤氏、再選へ猛追 兵庫県知事選情勢」(共同通信11月9日)という展開になった。
この記事へのコメントで選挙コンサルタントの大濱崎卓真氏は、告示後は選挙報道の公平性が問われることから「従来型の報道によるネガティブな流れは止まり、一方でSNSや動画といった新しいメディアでは斎藤候補に関するポジティブな情報が多く流れた」と解説していた。
斎藤前知事についての時系列が報じられると自動的に斎藤側に「ネガティブ」になってしまう。ところが選挙期間中になると公平、中立を掲げてテレビは候補者について詳しく扱わなくなる。その間隙を突きネットでは知事選の「真実」が自由に展開される。選挙期間中にテレビが萎縮する問題がこんな結果になるとは。
なぜニュースを見るのか。私は「理不尽な目に遭っている人」を知るためだと思っている。斎藤知事側にパワハラや公益通報者つぶしに遭った側は当然理不尽だと思ったのだが、「既得権益」に対して一人で闘い、メディアにいじめられている知事こそが被害者だ、と考える人も多かったということなのだろう。
気になるのはテレビや新聞はダメでSNSに真実がある、という二項対立の図式だ。いや、私だって既存メディアへの不満はある。でもそれはまだ利用する価値があると考えているからこそだ。「オールドメディア」と全否定するのはもったいない。
一方でSNSには確かにパワーを感じる。私の実感では、例えばラジオ番組で自著の新刊の宣伝をするより、SNSでのどなたかの感想をリポストするほうが売り上げに直結する手応えがある。ましてや自分のアカウントで宣伝すればなおさらだ。
YouTubeも同様だ。私は4年前からラッパーのダースレーダーと毎週時事ネタの動画配信をしているが、毎回2時間近くのトークでも再生回数は2万〜3万回。隔月の有料配信ライブでは多いときで3000枚近くチケットが売れる。だから日本全国の選挙や米大統領選を見に行く費用も賄える。自分が面白いと思う企画や活動は、実はテレビにガツガツ出なくてもできる状況なのだ。
でも否定するのではなく大事なのは既存メディアとの両立だと思う。「タコツボ」化にならないよう、求心力も大事だが「遠心力」も相変わらず重要だと考えるようになった。
もっと注意していることもある。以前から嫌いな「テレビではできない」「地上波では放送できない」などの売り文句だ。テレビに出れないことを隠すアングラ臭がして、自分が観客側のときにとても嫌だった。
なので私はいかなる場でも同じ、というスタンスだ。ネットに正義を見いだすと「テレビではできない」から、しまいには「メディアが報じない真実」へと極端に走りはしないか? リテラシーと言うと偉そうだが、やじ馬精神が問われている。誰にも「本当のところはどうなの?」という興味はあればこそ、テレビもネットも慎重に使いこなしたい。
※イラストは編集部の新しい試みとして画像生成AI「DALL-E3」で作成されています。
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