イスラエルとヒズボラ「なぜ今、停戦合意なのか」その思惑とは
ニューズウィーク日本版 / 2024年12月4日 10時54分
アッシャー・カウフマン(米ノートルダム大学教授)
<1年を超えた紛争で疲弊した「プレーヤー」たちの現実的判断、当面の戦闘再燃は避けられるが、恒久的平和はなお遠く>
イスラエルとレバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラは、11月27日から60日間の停戦に入った。イスラエル周辺で多方面の紛争が1年以上続くなか、中東地域の緊張緩和に向けて一つの転換点となる。
合意の内容は、イスラエル軍がレバノン領内から徐々に撤退し、ヒズボラはリタニ川の北側に完全に撤退する。一方で、レバノン軍はイスラエルとの国境周辺の自国領土に展開して管理する。合意を発表したジョー・バイデン米大統領は、アメリカとフランスをはじめ同盟国が合意の実施を支援していくと付け加えた。
しかし、今回の合意は当事者にとって何を意味するのか。より恒久的な敵対行為の停止の見通しはどうなるのか。ニュースサイト「ザ・カンバセーション」が米ノートルダム大学教授で中東の国境紛争とレバノンの専門家であるアッシャー・カウフマンに聞いた。
◇ ◇ ◇
──なぜ今、停戦合意なのか。
今回のタイミングは、イスラエル政府とヒズボラ、その最大の支援者であるイランの利害が一致した結果だが、それぞれに異なる理由がある。
イスラエルは国内で問題を抱えている。まず、イスラエル軍は1年以上にわたる戦争で疲弊している。特に予備役兵の間で招集に応じない人が増えている。一般市民も紛争に疲れ、ヒズボラとの停戦を望む声が多数を占めている。
ベンヤミン・ネタニヤフ首相も政権内の問題に苦慮している。連立政権に参加しているユダヤ教超正統派の2政党から、超正統派の徴兵免除の継続を迫られているのだ。
エルサレムで徴兵法改正に抗議するユダヤ教超正統派 MOSTAFA ALKHAROUFーANADOLU/GETTY IMAGES
レバノンとの戦線を沈静化させることは、必要な現役兵の数を減らすという点で役に立つだろう。イスラエル軍や国内では超正統派の徴兵を免除する法案に対する反発が強まっているが、ヒズボラとの戦争が終結すれば受け入れやすくなるかもしれない。
イスラエル軍としては、レバノンでの戦争は「収穫逓減」の局面を迎えている。彼らはヒズボラの軍事的地位を弱体化させることに成功したが、いまだ殲滅できずにいる。
そのヒズボラは軍事力に深刻な打撃を受け、レバノン国内で弱体化している。
9月に殺害された最高指導者のハッサン・ナスララは昨年、まずパレスチナ自治区ガザでイスラエルとイスラム原理主義組織ハマスが停戦した場合にのみ、自分たちとの停戦も可能になると繰り返していた。だがヒズボラとその後ろ盾のイランは、現在は2つの戦線を切り離したいと考えている。
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