「トランプ関税」の起源は独立戦争? 日本人には理解不能な「行動原理」を、アメリカ史から読み解く
ニューズウィーク日本版 / 2024年12月4日 18時55分
加谷珪一
<中国への追加関税だけでなく、日本など友好国にも高関税をかけると主張するトランプ次期大統領。「タリフ(関税)、それは最も美しい言葉だ」とまで述べる理由とは>
ドナルド・トランプ氏の米大統領への返り咲きが決まった。トランプ氏が掲げる関税政策が実行に移された場合、日本経済には大きな影響が及ぶ。一方、トランプ氏は主張が変わることがよくあり、政策の一貫性が保たれる保証もない。日本側はこうした不確実性も含めてトランプ政権と対峙する必要がある。
トランプ氏はアメリカ第一主義(アメリカ・ファースト)を掲げ、中国に対して60%、ドイツや日本など友好国に対しても10%の関税をかけると主張して大統領選に勝利した。トランプ氏は当選後、早速「メキシコとカナダからの全ての輸入品に25%の関税を課すために必要な文書に就任初日の1月20日に署名する」と具体的に宣言している。
トランプ氏は選挙戦で「タリフ(関税)、それは最も美しい言葉だ」と述べるなど、関税に対する並々ならぬ関心の高さを示してきた。関税という言葉が持つ政治的な響きは、日本人には理解しにくいかもしれないが、アメリカという国の成り立ちを考えると、決して無視できないものといえる。
説明するまでもなくアメリカは独立戦争(アメリカ革命)によって成立した国だが、ボストン茶会事件に代表されるように、宗主国であるイギリスと対立する要因の1つとなったのが関税である。
保護貿易を求めた北部、自由貿易を求めた南部
合衆国憲法制定後も関税をめぐる政治的争いは続き、輸入品から自国の工業製品を守るため保護貿易を主張した北部と、綿花の輸出を主産業とし、自由貿易を主張した南部の対立は、最終的に南北戦争という壮絶な内戦を引き起こした。内戦終結後も、関税をかける根源的権利を持つ議会と、大統領令による自由な関税実施をもくろむ大統領府(行政府)との間で今も権力争いが続いている。
アメリカは、ニューディール政策を行ったフランクリン・ルーズベルト大統領以後、連邦政府の権限や予算を大幅に拡大してきた。同時に自由貿易を是とするグローバル経済を推進することで、政治的にも経済的にも世界のリーダーとして君臨するという現代アメリカの基本政策を忠実に実行してきたといえる。
しかし、こうしたアメリカの基本政策が国民にとってメリットをもたらしていないと考える人が増え始めており、これがトランプ政権誕生の原動力となった。トランプ氏にとって、アメリカに製品を輸出する国はアメリカの富を奪っているという認識であり、保護主義的、かつ過激な関税政策もこうした価値観に由来している。
アメリカはモンロー主義時代に逆戻りしつつある
筆者はアメリカの内向き政策は既にオバマ政権の時代から顕著となっており、かつてのモンロー主義時代に逆戻りしつつあるとかねてから主張してきた。実際、国務長官に指名されるマルコ・ルビオ氏について、米メディアでは「新モンロー主義外交」という言葉で形容し始めている。
トランプ氏は交渉好きとされ、日本に対する高関税政策も、在日米軍駐留費の負担増など、他の交渉テーマとセットにしたパッケージ・ディールの材料にすぎないとの見方もある。そうした面があることは否定できないものの、アメリカ社会の根底に孤立主義への回帰という大きな政治的潮流があることについて認識しておく必要がある。高関税政策はアメリカにとって不利なので、いずれアメリカは音を上げるとは単純に考えないほうがよい。
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