食品廃棄物が資源に変わる...飼料とエネルギーを生む日本の革新
ニューズウィーク日本版 / 2024年12月10日 16時50分
岩井光子(ライター)
<社会が出す大量の食べ残しを飼料やエネルギーに変える革新的ビジネス>
自治体の焼却炉に持ち込まれるごみのほぼ半分は食品廃棄物。焼却には多額の税金が投入され、さまざまな「ロス」が社会問題となっている。
食品廃棄物を燃やさず、資源として有効活用しているのが日本フードエコロジーセンターだ。食品ロスから飼料やエネルギーを生み出す革新的ビジネスモデルを確立した。
2001年施行の食品リサイクル法を機にスーパーなどで余った食品を再生利用する動きが活発化した。その1つが約8割を輸入に頼る、栄養価の高い濃厚飼料の国産化だ。
センター代表の高橋巧一は1998年から未利用食料の飼料化を推進する農水省のワーキンググループに参加していた。水分の多い食品残渣は、腐敗を防ぐためにも水気を飛ばすのが望ましいとされていたが、乾燥工程でエネルギーを大量消費し、価格をつり上げていたことがネックだった。
突破口を切り開いたのが獣医師資格を持つ高橋だ。欧州の農家が乳製品やウイスキーの製造過程で出るホエイ(乳清)やポットエール(廃液)を液体飼料として活用する事例に着目。日本の醸造業の発酵技術で液体の飼料を作れば、長期間保存でき、コストも環境負荷も減らせると考えた。
高橋は液体発酵飼料の実証実験を重ね、農水省や大学と共同研究を進めた。粉砕した食品残渣を攪拌してジュース状にしたものを加熱処理後に冷却し、乳酸菌を加えて発酵させる。pH(水素イオン濃度指数)を一定以下にすると腐敗菌が育たず、約2週間は常温保存が利くようになった。
センターに搬入された廃棄物 COURTESY OF JAPAN FOOD ECOLOGY CENTER,INC.
開発した飼料を軸に食品廃棄物処分業と飼料製造業を合わせて事業化したのが、日本フードエコロジーセンターだ。
儲けよりも社会変革を
高橋は学生時代、自然保護の学生団体を立ち上げてボランティア活動に打ち込んできた。しかし熱意や知識だけでは国や大企業を動かせないと痛感。その経験が、獣医師ではなく経営コンサルを経て起業家になるという異色の道を突き進んできた原動力だ。
目指すのは「金儲けよりも社会変革」。開発した飼料も特許は取らず、工場内から製品情報も全て公開している。
昨年、センターの隣接地でバイオマス発電所「さがみはらバイオガスパワー」が稼働。それまでマヨネーズなど油分の多い食品の利活用は、豚の健康を考慮すると飼料に適さず断らざるを得なかったが、プラントで作るバイオガスの原料に回せるようになった。
メタン発酵後、ガスは抽出して売電事業に回す。液状の有機肥料である消化液を分離後、汚泥は排熱を利用して乾かし、肥料にする。原料もエネルギーも使い尽くす、無駄のないフローだ。
食品リサイクルの循環は相模原で一応完結したが、「まだ目標の半分の地点」と、高橋は先を見据える。「廃棄物は地域性が強く、うちのモデルは全国各地に適用できない。地域に即した循環モデルの仕組みづくりを後押ししたい」
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